たった一人の思いが、仲間を集め、未来を変えていく──。P&Gやソニーで活躍した戦略デザイナー、佐宗邦威氏によるイノベーション実践の智慧をまとめた書籍『ひとりの妄想で未来は変わる~VISION DRIVEN INNOVATION』から、混迷の時代を生きるあなたへのエール。今回は第4章「【意志】根のある生きた意義を発信せよ」からエッセンスを公開します。

(写真/Shutterstock)
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コロナ時代を生きるあなたへ:著者からのメッセージ

 オフィスというリアルな場を失って、リモートワークにより分散した人々をつなぎとめるためには、どうしたらよいのだろうか? 「北風と太陽」の例えのように、無理やり管理するのを諦め、社員が自分からいたくなる、働きたくなるような環境づくりをするほかない。

 そこで今まで以上に大事になってくるのが、企業の「存在意義」だ。分散化するワークプレースによって、間違いなく起こるマネジメントの概念の変化は、企業の存在理由や社会的な価値などの物語(ストーリー)が、個人と組織をつなぐということだ。

 実際、新型コロナ禍の中で、ダイソンは10日で人工呼吸器をゼロからデザインした。掃除機メーカーという存在を超えて、社会に必要なものをゼロからデザインする意義を持った組織であることを、身をもって示した。この存在意義は、既存の事業領域を越え、新たな社会的価値を実現しようとする明確な意志と行動から生まれる。

 利益の最大化だけで企業が存在意義を示せた時代は、完全に終わったと思う。今までつくられてきたミッション・ビジョン・バリューの文言を小手先で変えるのではなく、これからの社会に必要とされている存在意義を、自分たちの強い意志で再定義していく柔軟性を持った企業だけが、この大波を越えて生き残っていくのだと思う。

「戦略」だけでなく「意義」が必要になる理由

 ビジネスの現場で“戦略”は議論することがあっても、“ビジョン”について議論をする機会はそう多くないだろう。ビジョンは、創業者や経営者によって与えられた“所与”のものであり、それをどう実現させるかが社員の役割だ。これは20世紀のビジネスにおいて常識だったが、果たして今後も常識であり続けるのだろうか?

 競合に勝ち、利益を生み出せる戦略は当然大事だが、最近では金儲けだけが目的の“資本主義万歳”といった会社は、急速に支持を失う傾向がある。その半面、“何のためにやっているのか?”“どんな社会を実現しようとしているのか?”という意義が、社会に浸透している会社は好感度が高い。

 ではなぜ、この意義が重要になってきているのか。それには大きく3つの潮流が関係していると思う。

技術による社会変化のスピードが上がっていること 

 この先~20年はAI、IoT、ロボティクスやデジタル・ディスラプション(デジタル技術の革新がもたらす創造的破壊)など、先端技術のインフラ化が一気に進み、コンピュータの処理スピードが上がっていくことからも、社会がこれまでとは大きく変わる可能性が高い。

 そうなると、既存の延長ではなく、理想の未来を定義して、そこから逆算していく「バックキャスティング」の思考が必要になる。急激な技術進展は、必ずしも幸せを生むとは限らない。こうした技術を人のストーリーに翻訳し、幸せな未来づくりの像や道筋を提示できる企業が、より多くの共感を得られる時代になっていくだろう。

意義にお金を払うミレニアル世代の市場への参入

 生まれたときからインターネットやスマホが存在し、息をするようにデジタルと付き合うミレニアル世代は、2025年にはアメリカの労働人口の75%を占めるようになるという。この世代は、インターネットで人や世界とつながり、デジタル上で自分のコンテンツを生み出しながら生きていくのが当たり前となっている。

 “一緒に働く人を大事にする”“クリエイティブな環境を求める”といった、自由でフレキシブルな働き方が広がってきているのも、今後、この世代が労働市場でも大きな割合を占めることになる、社会の変化によるところが大きい。そして彼らの特徴が、購入商品を選ぶ際に、モノよりも“意味”を重視し、商品の機能よりも企業の“意義”への共感を重視するという点だ。

 これまでは決まりきった市場で陣取り合戦を繰り広げていた従来型産業も、IoTによるデジタル化が進むなか、社会に対して意義のある事業を行い、それに共感するファンや投資が集まるモデルへと変化している。そこでは便利さや快適さはもちろん、その会社がどのような世界をつくり出したいのかという、ミッションや世界観への共感がビジネス上、大事になってくる。

社会の分断が問題化するなかで、社会価値の創造が企業の価値になっている 

 日本は今後、人口減少のなかを生きていく必要があるにもかかわらず、インターネットによって個人の影響力が強くなり、社会の分断が進んでいる。一方、公共セクターはその役割を民間に委ねざるをえなくなっているなかで、そうした社会課題を解決するためのプラットフォームを提案できる会社への注目度はさらに高まる傾向にある。これからの大企業は、さまざまな企業や消費者を巻き込んで、一緒に社会を動かしながら事業自体の価値を育んでいくことも、その役割になるのではないだろうか。

 これらに共通しているのは、以前は売上、もしくは利益という単一指標で成功を測ることができ、そこに疑問が生まれる余地がなかったビジネスの世界で、主観的な“意義”をつくる必要に迫られているという事実である。この意義は“WHY=なぜ、その事業をやりたいのか?”という哲学や倫理、美学にかかわる分野であり、言葉にすると同じようなものでも、誰が、どんな場で語るかで大きく意味が変わってくる。

 戦略は“WHAT=どんな事業を、どこでやるのか?”であるということと比較すると、今後のビジネスはユーザーの共感を得るうえでの提供価値であるWHATから、意義を表す思想であるWHYに移っていくだろう。では、これからますます重要になっていく意義を、ビジネスや経営の現場で、どのようにして見出し、どう活用していったらいいのだろうか?

独自の言葉で語るか、バズワードで語るか

企業DNAであるミッション/ビジョン/バリューとは
企業DNAであるミッション/ビジョン/バリューとは

 現在の経営の現場では、この“意義”をミッション/ビジョン/バリューといった経営理念として、それをコーポレートブランディングやCSRによって社内外に浸透させている。

 ビジネスや経営におけるミッション/ビジョンの重要性は、カリスマ経営者といわれた松下幸之助氏や稲盛和夫氏などの著作などを見ても“常識”とされているが、世界的ベストセラーの『エクセレント・カンパニー』(英治出版)によると、強烈な経営哲学をもつリーダーの存在によって、会社はよい会社から偉大な組織となるという。偉大な組織は、宗教的ともいえる共通する要素をもっている。それが、思想によって生まれた意志だ。

 新しい取り組みの言いだしっぺ=創業者は、企業が目指す理想の状態=ビジョン、現状とのギャップを埋めるベクトル=ミッションを事業を通じて体現していく。そのなかで、チームにおいて無意識に信じる価値観=バリューが生まれ、日常の業務における行動指針にしているうちに、独自の文化が育まれる。これらは、創業時につくられるDNAのようなものだ。

 創業時に、言いだしっぺが語るストーリーに共感した仲間は、それぞれのもつ個人の力を最大限に発揮することで、新たな価値をつくり出す。この初期段階では、DNAは日常の行動で無意識に実践されており、直接、接するかたちで自然に組織の構成員に伝わる。したがって、言語化したミッションやビジョンはそこまで必要ない場合も多い。

 会社が、それを必要とするのは、組織が成長し、創業者が1対1で接することができない20~100人規模になってきたころだ。そうすると、いままでは創業者の姿を見て、黙っていても伝わっていた価値観や未来像が伝わらなくなってくる。

 しかも、いまのミレニアル世代が求める自律性の高い働き方を実現する組織をつくると、組織においては遠心力が働いてしまう。自律的で創造的な文化を保つためには、自分たちのコアのDNAを定め、それを日常の業務のなかで企業文化にしていくことがより重要になってきている。

 創業者がDNAを言語化し、まとめることは、企業文化を育てていく仕組みをつくるということだ。意志は本人がいなくても伝わっていくようになり、集団が組織となって、自然にその意志の実現に向けてパフォーマンスを上げていく。

 価値観に合わせた、その会社らしい日常のルーティンが生まれ、それがミームとして社内に広がっていくと企業文化となる。仕組み化すると、そのベクトルの達成状態を測ることが必要になり、KPIなどの指標を使ってビジョンに近づく道筋の進捗管理をすることで、ルーティン化していく。

 では、現代のビジネス現場を見てみよう。まず、多くの企業体においては、ミッションやビジョンが本当に会社の駆動力になっているとは言い難い。インナーブランディングを行い、言葉も冊子もつくったが、実際にはその実現のための議論よりも、株主にコミットした売上・利益が優先されることが少なくない(ミッションやビジョンが売上、利益で定義されていれば一貫はしているのだが……)。

 これは、お題目型ミッションだ。また、昔は“ミッション・ドリブン”な会社だったが、創業者がいなくなってからその魂が失われ、アンタッチャブルで生き続けていない教典型ミッション/ビジョンになってしまった会社も多い。歴史のある会社においては、ミッションやビジョンは存在するが、それを生かすことが課題になる。

 一方、新たな場を生んでいる例として、スタートアップはどうだろうか?

 スタートアップは、資金調達をするタイミングで大きく野心的に考えることが求められるため、スケールする段階で大きな事業計画と同時に、その将来的な成長を受け入れる大きな器としてミッション/ビジョンを用意する必要性が高い。特に最近は「ディープテック」と呼ばれる、長期視点でのテクノロジー投資を必要とするスタートアップが増えており、短期的な売上・利益より骨太なビジョンをミッションとともに描き、その成長の可能性を語る重要性が高まっている。

 スタートアップでも、その事業の社会的インパクトにこだわる企業ほど、生きたミッション/ビジョンをつくり、外部のリソースを得るため、そして、組織の求心力を高めるための組織マネジメントやインターナルブランディングとして活用したいというニーズが大きくなっている。それに伴い、BIOTOPEでもこうした会社を支援するケースが増加中である。

 ミッション/ビジョンが生きている会社かどうかは、どう見分ければいいのだろうか?

 ヒントとなるのは、社員が独自の言葉を使っているかどうかどうかだ。ミッション/ビジョンが生きている企業では、打ち合わせをしていて、メディアやMBAの教科書に出てくるような言葉がそのまま使われることは皆無であり、必ずその企業流の言葉に翻訳されていたり、口癖になっている。

 独自性のある言葉とは、その背景に思想や世界観が入っているからこそ生まれてくる。たとえば、古くは「人のやらないことをやる」(SONY)、「お前はどうしたい? 圧倒的当事者意識」(リクルート)、「Go Bold(大胆にやろう)」(メルカリ)などが有名な例だろう。オリジナルの世界観があり、経営陣だけではなく、現場の一人ひとりが自分なりの言葉で話していたり、自分たちの言葉をつくっていこうという姿勢がある。

 逆に、ミッション/ビジョンが死んでいる会社では、世の中のビジネスメディアに出てくるバズワードをそのまま使ったプレゼンテーションが主流だったり、そういう会社には戦略系コンサルティング会社がびっしり支援に入っていたりする。規模と数字の話に終始し、現場ではその仕事に意義を感じられずに、若くて優秀な人たちがモヤモヤしていることが多い。

 ほとんどの会社は、生きた理想像とベクトルが創業期に存在したはずだが、どこかのタイミングでそれが死んでしまうのだ。これには、どんな背景があるのだろうか?
(以下、本書にて)

[本書第4章より抜粋]

佐宗邦威氏
佐宗邦威 BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー

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