独自の言葉で語るか、バズワードで語るか

企業DNAであるミッション/ビジョン/バリューとは
企業DNAであるミッション/ビジョン/バリューとは

 現在の経営の現場では、この“意義”をミッション/ビジョン/バリューといった経営理念として、それをコーポレートブランディングやCSRによって社内外に浸透させている。

 ビジネスや経営におけるミッション/ビジョンの重要性は、カリスマ経営者といわれた松下幸之助氏や稲盛和夫氏などの著作などを見ても“常識”とされているが、世界的ベストセラーの『エクセレント・カンパニー』(英治出版)によると、強烈な経営哲学をもつリーダーの存在によって、会社はよい会社から偉大な組織となるという。偉大な組織は、宗教的ともいえる共通する要素をもっている。それが、思想によって生まれた意志だ。

 新しい取り組みの言いだしっぺ=創業者は、企業が目指す理想の状態=ビジョン、現状とのギャップを埋めるベクトル=ミッションを事業を通じて体現していく。そのなかで、チームにおいて無意識に信じる価値観=バリューが生まれ、日常の業務における行動指針にしているうちに、独自の文化が育まれる。これらは、創業時につくられるDNAのようなものだ。

 創業時に、言いだしっぺが語るストーリーに共感した仲間は、それぞれのもつ個人の力を最大限に発揮することで、新たな価値をつくり出す。この初期段階では、DNAは日常の行動で無意識に実践されており、直接、接するかたちで自然に組織の構成員に伝わる。したがって、言語化したミッションやビジョンはそこまで必要ない場合も多い。

 会社が、それを必要とするのは、組織が成長し、創業者が1対1で接することができない20~100人規模になってきたころだ。そうすると、いままでは創業者の姿を見て、黙っていても伝わっていた価値観や未来像が伝わらなくなってくる。

 しかも、いまのミレニアル世代が求める自律性の高い働き方を実現する組織をつくると、組織においては遠心力が働いてしまう。自律的で創造的な文化を保つためには、自分たちのコアのDNAを定め、それを日常の業務のなかで企業文化にしていくことがより重要になってきている。

 創業者がDNAを言語化し、まとめることは、企業文化を育てていく仕組みをつくるということだ。意志は本人がいなくても伝わっていくようになり、集団が組織となって、自然にその意志の実現に向けてパフォーマンスを上げていく。

 価値観に合わせた、その会社らしい日常のルーティンが生まれ、それがミームとして社内に広がっていくと企業文化となる。仕組み化すると、そのベクトルの達成状態を測ることが必要になり、KPIなどの指標を使ってビジョンに近づく道筋の進捗管理をすることで、ルーティン化していく。

 では、現代のビジネス現場を見てみよう。まず、多くの企業体においては、ミッションやビジョンが本当に会社の駆動力になっているとは言い難い。インナーブランディングを行い、言葉も冊子もつくったが、実際にはその実現のための議論よりも、株主にコミットした売上・利益が優先されることが少なくない(ミッションやビジョンが売上、利益で定義されていれば一貫はしているのだが……)。

 これは、お題目型ミッションだ。また、昔は“ミッション・ドリブン”な会社だったが、創業者がいなくなってからその魂が失われ、アンタッチャブルで生き続けていない教典型ミッション/ビジョンになってしまった会社も多い。歴史のある会社においては、ミッションやビジョンは存在するが、それを生かすことが課題になる。

 一方、新たな場を生んでいる例として、スタートアップはどうだろうか?

 スタートアップは、資金調達をするタイミングで大きく野心的に考えることが求められるため、スケールする段階で大きな事業計画と同時に、その将来的な成長を受け入れる大きな器としてミッション/ビジョンを用意する必要性が高い。特に最近は「ディープテック」と呼ばれる、長期視点でのテクノロジー投資を必要とするスタートアップが増えており、短期的な売上・利益より骨太なビジョンをミッションとともに描き、その成長の可能性を語る重要性が高まっている。

 スタートアップでも、その事業の社会的インパクトにこだわる企業ほど、生きたミッション/ビジョンをつくり、外部のリソースを得るため、そして、組織の求心力を高めるための組織マネジメントやインターナルブランディングとして活用したいというニーズが大きくなっている。それに伴い、BIOTOPEでもこうした会社を支援するケースが増加中である。

 ミッション/ビジョンが生きている会社かどうかは、どう見分ければいいのだろうか?

 ヒントとなるのは、社員が独自の言葉を使っているかどうかどうかだ。ミッション/ビジョンが生きている企業では、打ち合わせをしていて、メディアやMBAの教科書に出てくるような言葉がそのまま使われることは皆無であり、必ずその企業流の言葉に翻訳されていたり、口癖になっている。

 独自性のある言葉とは、その背景に思想や世界観が入っているからこそ生まれてくる。たとえば、古くは「人のやらないことをやる」(SONY)、「お前はどうしたい? 圧倒的当事者意識」(リクルート)、「Go Bold(大胆にやろう)」(メルカリ)などが有名な例だろう。オリジナルの世界観があり、経営陣だけではなく、現場の一人ひとりが自分なりの言葉で話していたり、自分たちの言葉をつくっていこうという姿勢がある。

 逆に、ミッション/ビジョンが死んでいる会社では、世の中のビジネスメディアに出てくるバズワードをそのまま使ったプレゼンテーションが主流だったり、そういう会社には戦略系コンサルティング会社がびっしり支援に入っていたりする。規模と数字の話に終始し、現場ではその仕事に意義を感じられずに、若くて優秀な人たちがモヤモヤしていることが多い。

 ほとんどの会社は、生きた理想像とベクトルが創業期に存在したはずだが、どこかのタイミングでそれが死んでしまうのだ。これには、どんな背景があるのだろうか?
(以下、本書にて)

[本書第4章より抜粋]

佐宗邦威氏
佐宗邦威 BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー

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