新たな場がないと、新たな秩序は生まれない

 既存事業では、効率性を最大優先で運営するため、既存事業のなかで新規事業を育成しようとすると、①事業規模が大きい既存事業と比較され、リソースの優先順位が下がる ②決裁者が新しいビジネスモデルを評価できない ③品質管理・広報・開発など、前例を壊した新しい挑戦をするための社内調整コストが膨大にかかる、といった課題に直面する。

 これらは特に、最初の【0→1】の構想ステージや【1→10】の企画ステージの大きな足かせとなる。一度、この初期ステージを乗り越えられると、既存事業がもつ販売チャネル、クライアントとの接点、研究開発のネタや特許などが価値になるのだが、そこにたどり着く前にほとんどのタネが死んでしまう。こうした環境下では、前例のなかったはずの取り組みは、調整コストを最小化するために、たいていが“見たことがある落としどころ”になってしまう。

 日本企業においては、R&D投資として世界3位となる総額17兆円の資金が、こうした新しいものを生み出す場に投入され、R&D部門がそれを一手に引き受ける構造になっている。また、イノベーションが「技術革新」と訳される日本では、イノベーション案件のほとんどがR&D担当役員にアサインされるが、R&D部門は研究テーマを深掘りする「象牙の塔」になっている場合が多く、タコツボ化しており、多様性から新たなものを生む「創造する組織」のOSとは程遠い運営がされている。

 さらに、こうした研究所では研究者個人がそれぞれの専門性をもち、その専門性を深掘り(知の深化)するために多くのリソースを割いているが、都心近郊の生活感の薄い“R&D村”に位置するため、日常生活のなかでユーザーや社会ニーズと出合う機会が生まれにくい。深化させてきた技術を、ユーザーニーズやほかの技術シーズと混ぜ合わせて、孵化させる多様性のある場が足りないのだ。

 BIOTOPEは、NTT先端技術総合研究所と将来の研究テーマ探索のために分野横断の研究者と生活者を交えた技術の活用法を共創する場をつくるプロジェクトを支援している。研究者にとって自分の研究を普段会わない人からとらえ直してもらい、自分がもっている技術を専門用語を使わずに伝える場は、新たな視点を見つけるきっかけとなる。

 こうした固まってしまった視座の転換をするというのは、イノベーションのひとつの本質的な営みといえるだろう。そのために必要なのが場なのだ。

 場は、秩序を壊すための新たなスペースだ。逆に、新たな場が存在しないと、新たな秩序は生まれない。新たなものを生み出す場をつくるためには、まずは組織のなかのどこかに“間”=“余白”をつくり“場”=“創造”のキャンバスをつくることがスタートになる。本章では、次のアタリマエを育てる土壌をつくるための智慧を紹介しよう。
(以下、本書にて)

[本書第3章より抜粋]

佐宗邦威氏
佐宗邦威 BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー

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