創造の生態系を生んでいくイノベーション

 僕の経営するBIOTOPEは、ひとりの妄想や想いに熱を吹き込み、クリエイティブやデザインの力で、彼らが思い描いた未来をかたちにする支援を行う“共創型戦略デザインファーム”だ。僕らが一緒に働くのは、現場であれ、経営者であれ、自らが妄想をもち、次の社会の未来をつくることを志すビジョナリー(またはその卵)である。

 その仕事は、単に新しいコンセプトやモノをデザインするだけではなく、“ビジョン・ドリブン(VISION DRIVEN)”な大きなビジョンを実現させるために、創造OSをもった場を広げ、仲間やパートナーを巻き込んで生態系をつくりながら、点から面へと波及するネットワーク型の創造と革新に伴走することだ。

 クライアントチームの妄想を引き出すことから始まり、それをビジョンに落とし込み、会社、事業、サービス、イノベーションエコシステムといったかたちにして社会に実装させる。心理学や組織開発の知見を使い、各々の理想と現実とのギャップを埋めるための道筋を見つける戦略と、その実現のためのコンセプトやプロダクト、サービス、ビジネスを、クリエイティブの方法論を使ってデザインし、具体化する、いわば“ビジネスとクリエイティブの交差点”が、僕らBIOTOPEの立ち位置だ。

 取り組むテーマは、経営者や事業のトップとともに、企業のDNAであるミッション/ビジョンをつくり、理念型のブランディングを行っていくこともあれば、R&D部門と一緒に技術で人間を幸せにするようなビジョンを描いたりもする。また、新規事業や商品、サービスのコンセプトをつくったり、新規事業の生態系やラボといった新たなものが生まれる場をデザインしたりと、実に多彩だ。

 僕らはこうしたさまざまなビジネスの現場を通じて、困難があっても止まらない取り組みに、ある共通のパターンがあるということに気づいた。かたちになっていくイノベーションは生き物の生態系を育てていくようなものだ。妄想家の個人の強烈な想いを起点に、場をつくり、ビジョンを発信し、そこに新旧のさまざまなプレイヤーを巻き込んだ新たな生態系を形成し、創造しながら社会に変化を起こしていく。

 本書では、僕がP&GやSONYなどの企業のなかの人として、そしてBIOTOPEとしてかかわった、分野を越えたイノベーションの現場で、クライアントの方々との共創と実践を通して学んだ“前例のない取り組みを、ひとりの妄想を起点に実装していく、創造と革新のための現場の智慧”を紹介したいと思う。

 第2~5章では、創造OSの生態系を生み出すために不可欠な“ビジョン・ドリブン・イノベーション(=創造の生態系を生んでいくイノベーション)”の4つの創造のエッセンス──人、場、意志、創造──について、「創造の16の智慧」を紹介していく。

創造する組織を生み出す4つのエッセンス
創造する組織を生み出す4つのエッセンス
創造のエッセンス
【人】辺境に眠る妄想家に仲間との出会いをつくる
【場】次のアタリマエを育てる創造の土壌をつくる
【意志】生活者、会社、社会の文脈を紡ぎ直し、根っこのある意義を発信する
【創造】自分たちに合った創造の型をつくる

 既存の組織に所属しながら、会社や組織のなかで新たな取り組みを仕掛けるときは、ゼロベースの創造だけではなく、すでに存在するものを新しいモデルに変えていく“革新”が必要となる。一方、既存の仕組みが回っている組織のなかには、新しいものを生み出す阻害要因が存在する。第6章では、特に既存組織内からの未来創造を志す組織内イノベーターのために、「機械型組織が創造を阻む5つの滞り」とともに、イノベーションの段階ごとに既存の組織を巻き込み、新たなモデルを接木する「革新の20のツボ」を紹介する。

機械型組織の創造を阻む5つの滞り
機械型組織の創造を阻む5つの滞り
革新のツボ
【組織】機械的組織の5つの滞りを超え、新たな回路を発火させよ

 第7章では、創造と革新の活動をスケールして持続可能な組織にしていくため、人、場、意志、創造という4つのエッセンスが組み合わさることによって生まれる生態系的な創造する組織の経営モデルを、現場のイノベーターの道標として提示したいと思う。現場で仕込んでいる新たなイノベーションは次世代の経営モデルの原型になりうる。その未来の可能性を感じていただけたらと思う。

 この本は、会社の現状にモヤモヤしている誰かが、仲間を巻き込んで妄想の実現に向けて歩きだすきっかけになればと思い、BIOTOPEでイノベーションプロジェクトを実践するうえで気をつけている実践知の共有のために執筆した。各章ごとに複数の実践の智慧を紹介しているが、最後にそれを具体化するための参考文献も掲載しているので、自分たちの課題が明確な人は、併せて参照してみるといいだろう。また、各章終わりのコラムに、仲間と一緒にできる簡単なエクササイズをいくつか用意した。この本を共有し、一緒にそれを行うことで、アクションを起こすきっかけとなれば本望だ。