マンガやゲームなどに登場するキャラクターとしての織田信長だけを585作品703人集めた『信長名鑑(しんちょうめいかん)』(太田出版)。2019年11月の発売後に「狂気の1冊」としてSNS上でも話題となった。著者の姫川榴弾氏に強力な人気を保ち続けるキャラとしての信長の魅力を聞いた。
数々のマンガやゲーム、アニメの主要キャラクターとして登場し続ける織田信長。2020年1月には織田信長が現代の女子高生の飼い犬に転生し、同じく犬に転生した武田信玄などの戦国武将たちと当時の反省会トークをほのぼのと行うマンガ『織田シナモン信長』(目黒川うな著)がテレビ東京でアニメ化されて話題となった。一方で、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」で明智光秀の生涯が描かれるのも織田信長を本能寺の変で倒したという関係があってこそだ。
なぜこれほどまでに織田信長は人々に注目され、長く愛され続けるのか。それを理解することは様々なジャンルでの商品開発にも参考となるはずだ。その織田信長が登場する作品を網羅的に調べて『信長名鑑』という1冊の本にまとめたのが姫川榴弾氏だ。同書では、10年以降の創作物を中心に江戸時代から現代まで585作品703人の「信長」を紹介している。
姫川氏が同書を作った動機は「インターネットかいわいでは10年くらい前から織田信長がマンガやゲームの様々な作品の中で擬人化、イケメン化、女体化(本来は男性のキャラクターが女性キャラクターになること)など自由なアレンジが施されているという共通認識があり、多くの人が信長像の変遷に興味を持っている」と考えたためだ。また、プロレスやサッカー選手の名鑑のような作りでありながら、紹介する人物の名前がすべて織田信長という本を作ったら面白いと思ったことも背中を押した。
実際、発売時にはTwitterなどネット上で話題になり、発売から1週間で増刷を決めたほどだ。アイティメディアが運営するWebメディア「ねとらぼ」が同書を紹介した記事のtwitterは、2万リツイート、2.5万いいねも集めるほどだったという。「ねとらぼ」のつぶやきには「信長がゲシュタルト崩壊しそう」との紹介コメントがあるが、確かにひたすら信長が登場する誌面はまさに圧巻だ。
いろいろな意味を込められる記号=信長
信長のキャラクターとしての魅力を姫川氏は、「信長の逸話には、あらゆるタイプのものがある」と分析する。例えば、信長はかんしゃく持ちで明智光秀に理不尽な暴力を振るったというよく知られた逸話がある一方で、自分への謀反を繰り返した者を何回も許すという情け深い人柄を伝える逸話もある。
「信長の若い頃は少女マンガの王道的なプロットのようです。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では沢尻エリカの降板で川口春奈が演じる帰蝶(濃姫)は信長の正室と考えられていますが、彼女を少女マンガの主人公と考えた場合、親が決めた結婚相手はうつけ者(変わり者)と呼ばれる信長でしたが、実はとても頭が良い。信長は弟に殺されそうになるなど周りは敵だらけですが、唯一の理解者が私=帰蝶というストーリーが逸話を組み合わせることで簡単に作れてしまう」
信長には現代のビジネスパーソンに通じる逸話もある。自分が建てた安土城(滋賀県)に見物客を集めて拝観料を取ったというもので、これは「日本でのショービジネスの先駆けと捉えることが可能」(姫川氏)だ。人によってどの様にでもイメージを膨らませられる存在。いろいろな意味を込められる「記号」。それが信長というわけだ。
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