明智光秀を主人公とするNHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」が始まった2020年1月19日。その瞬間を今か今かと待ち構えていたのが、キリンビール、キリンビバレッジなどキリングループの企業だ。麒麟をシンボルマークに掲げるキリングループの取り組みに迫る。
「麒麟が・・・」「いよいよ...今夜...!“くる”...!」――。2019年1月19日(日曜)午後8時。NHK総合で大河ドラマ「麒麟がくる」第1回の放映が始まるや、キリンビールとキリンビバレッジのTwitterアカウントが絶好のチャンスとばかりに“匂わせツイート”を仕掛けた。
これに呼応してTwitter上では、午後8時からの地上波本放送を「本麒麟」、本放送よりも時間が早い4K、BS放送を「一番搾り」と呼ぶなど、キリンを意識した大喜利合戦が繰り広げられた。2016年の大河ドラマ「真田丸」で、地上波本放送を「本丸」、BS放送を「早丸」と呼んでいたことをまねて、放送時間帯別の呼称が勝手に盛り上がりを見せた。
同社は週末に「キリン 麒麟」などのキーワードで聖獣麒麟の由来を調べる検索が増えることを見越して、「幸せを運ぶ “聖獣麒麟”」を解説するランディングページを設置し、サイトトップページのスライド型メニューから誘導している。
明智光秀の生涯を描く2020年の大河ドラマのタイトルにNHKは、「王が仁のある政治を行う時に必ず現れるという聖なる獣」として麒麟に着目。麒麟がどの英雄の頭上に現れるのか、その戦国ドラマを「麒麟がくる」と題して、2018年4月に制作発表をした。
この決定にキリングループ社内は沸き立った。聖獣麒麟は「キリンラガービール」や「一番搾り」など同社主力商品のラベルに描かれているシンボルマークであることは誰もが知るところ。同社の前身であるジャパン・ブルワリー・カンパニーが1888年に「キリンビール」を発売し、翌1889年に現在とほぼ同様のラベルデザインが採用され、以来130年がたつ。
ドラマタイトルが発表された2018年4月当時、キリンホールディングスでは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」(KV2027)の策定を準備している最中で、聖獣麒麟をキリングループのコーポレートシンボルとして「KIRIN」の先頭に付けるロゴマークの刷新を決めたところだった。聖獣麒麟を「幸せを運び、よろこびと共にある」存在と定義づけ、2027年に向けて“麒麟推し”を進めようとしていた矢先の出来事だったのだ。翌19年2月に、KV2027、ならびに聖獣麒麟と新スローガン「よろこびがつなぐ世界へ」を配した新しいロゴを発表した。
各自治体が観光需要創出のため、「地元の英雄をぜひとも大河の主人公に」とNHKに懇願する中、究極の“棚ぼた”とでも言おうか、キリンに慶事の麒麟が早々に訪れた格好だ。
この好機を生かさない手はない。大河ドラマの舞台となる中部・近畿圏での地元の盛り上がりに応えて、キリンビール近畿圏統括本部とキリンビバレッジ近畿圏地区本部は、「麒麟がくる」の題字を使用したオリジナルデザイン商品「キリン一番搾り オリジナルデザイン缶 麒麟がくる」(350ml缶)、「キリンレモン オリジナルデザインラベル 麒麟がくる」(450mlペットボトル)を3月10日から数量およびエリア限定で発売する。キリンビール東海支社岐阜支店でも、題字を使用した「一番搾り」の中びん(500ml)を主に岐阜県内のホテルや飲食店向けに販売。長良川温泉の7つのホテル・旅館が、「麒麟を飲む、楽しむ、泊まる。戦国宿泊プラン」を実施している。この他キリンビール名古屋工場(愛知県清須市)では2~3月に聖獣麒麟の歴史や秘密を紹介するパネル展を実施中だ。
降って湧いた“麒麟特需”に社内は活気づいているが、新CIを策定したキリンホールディングスのメンバーは決して浮かれてはいない。
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