成長に陰りが見えた台湾のスーパーマーケット「全聯(れん)福利中心(PX MART)」(以下、全聯)の総裁となった徐重仁は数々の大胆な改革を実行し、「スーパーの第2の流通革命」を成し遂げた。全聯のビジネスモデルを流通の最先端に進化させた直後、徐は辞職を発表。業界は騒然となった。突然の辞職から現在に至るまでの徐の道程を振り返る。(本文敬称略)
2017年7月1日、台湾の実業界に激震が走った。全聯の徐重仁総裁辞職のニュースが飛び込んできた。「全聯の総裁を辞めたい」という徐の決意を林敏雄董事長(会長)が承認。徐は同年9月末をもって正式に全聯から離れ、実業界から引退。全聯の経営は61歳の謝健南執行長(CEO:最高経営責任者)が引き継ぐと発表された。
14年1月に総裁の座に就いて以降、徐は商品構成、ディスプレー、店舗デザイン、プロモーションの徹底した見直しに着手。それにより顧客層の拡張や物流システムの改革、経営の効率化を実現した。これまでの「安売り」に特化した経営が時代に合わなくなり成長に陰りが見えていた全聯を、一気に最先端のスーパーストアへと進化させた。たった3年半で「スーパーにおける第2の流通革命」を達成したばかりの、突然の引退宣言に対してさまざまな臆測が乱れ飛んだ。
とりわけまことしやかに噂されたのが、「徐総裁は“2つの出来事”の責任をとって引退した」というものだった。それは「コメントによる炎上」と「全聯広報部による肖像権侵害」だ。
17年4月、徐は自著『真心看自己 有念則花開』の出版記念会で低賃金問題が話題になったとき、「今の台湾の若者は、たくさんお金を使います。私が初めて社会人になったときは、わずか9000台湾元の月給で生活しなければならなかった」と発言。このコメントを「若者批判」と捉えた一部のネットユーザーから反発を招き、炎上。徐が全聯のフェイスブックで謝罪するまでに至った。
その翌月、台湾を代表する映画監督の呉念真がフェイスブックで「全聯の広報誌に無断で自分の写真とコメントを掲載された」と告発。全聯が謝罪の声明を発表する騒動となった。
徐総裁はこの2つの騒動の責任をとって引退したのではないかとマスコミで騒がれたが、徐自身はその真偽に言及しなかった。
実際のところはどうだったのか。
全聯で今なお引き継がれる徐の経営理念
「全く関係ないとは言いませんが、その2つの出来事だけではなく、他にもいろいろな理由がありました」と徐は語った。
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