台湾に30社以上の流通関連会社を設立し、「台湾の流通の父」と呼ばれる徐重仁。子会社には日本企業との提携による合弁会社が多い。日本企業が台湾進出で苦労し、撤退を余儀なくされる事例も少なくない中、なぜ徐は成功率を高められたのか。日本と台湾の企業提携を成功させる秘訣に迫る。(本文敬称略)
日本人は良くも悪くも「こだわり」が強い
「流通経済の発展で先行する日本に学ぶ」という徐の方針は、多角化戦略でも変わらなかった。ドラッグストアの康是美(COSMED)のビジネスモデルはマツモトキヨシが手本だ。台湾スターバックスも出店戦略は日本のスタバを参考にした。低温物流会社の統昶行銷設立時には明治乳業(現・明治)から技術指導を受け、企業情報管理会社の統一資訊は野村総合研究所とのジョイントベンチャーだ。さらに統一超商東京マーケティングを、日本のブランディングを学ぶため東京に設立した。
徐が提携した流通関係の日本企業には、ダスキン、ヤマト運輸、イエローハット、良品計画、阪急百貨店(現・阪急阪神百貨店)、AHBインターナショナル(東京・江東)、楽天(現・楽天グループ)、サザビーリーグ(東京・渋谷)、サトレストランシステムズ(現・SRSホールディングス)と、そうそうたる顔ぶれが並んでいる。また物流関係では三菱商事と菱食(現・三菱食品)、製造関係ではムサシノ食品などがある。
徐は多くの日本企業と提携して人材を迎え入れた。彼らから専門知識や最新技術、経営ノウハウを直接吸収することで新規事業のリスクを減らし、事業の持続性を高めた。
しかし、当時の状況を見ると、日本企業の台湾進出は容易でなかった。ベスト電器(2004年に進出、17年に撤退)や白木屋(1997年に進出するも日本の出店を優先するため98年に撤退、12年に再進出、17年に撤退)など、いくつかの日本企業は撤退を余儀なくされた。
どうすれば台湾と日本の提携事業の成功率を高められるのか。徐は「台湾に来る日本側のトップが克服すべき弱点」を2つ挙げた。「完璧主義を捨てられない」ことと「決断する勇気が持てない」ことだ。
徐は事あるごとに「他国の事業を導入するとき一番大切なのは『現地化(ローカライズ)』だ」と明言した。日本企業との提携事業においても、この現地化を徹底した。
「台湾のお客様はその商品やサービスをどう受け取るか。台湾の消費習慣が日本に比べて未成熟なら、どんなステップで入り込むべきか。現地の消費者をよく観察し、理解しないと事業は失敗する」と徐。そのため、台湾に来る日本側のトップに必要なのは「日本流の完璧主義を捨てることだ」だ指摘する。
台湾では日本人のことをよく「龜毛(グーマオ)」と表現する。「『龜毛』とは『こだわりが強い』という意味で、良い面と悪い面の両方で使われます」と徐は言う。日本人の「職人気質できちんと仕事をする」という傾向を褒める言葉でもあるが、逆に「細かいことまで気にしすぎる」「柔軟性に欠ける」「慎重すぎて仕事が進まない」と揶揄(やゆ)するときにも使われる。だが、すべてが否定的というわけではない。成功した台湾の企業家には「龜毛」な一面を持つ人物が多いとも言われているからだ。
「私はちょうど中間です」と徐は笑った。
日本と台湾では初期投資が全く違う
「完全に日本のやり方だと台湾では通用しません。中間のやり方になるよう調整しながら、日本のビジネスを台湾に合うよう現地化しました」
この「中間への調整」によって、当時の台湾では弱点となる日本企業の“悪しき”完璧主義を捨てさせた現地化の事例が、1999年9月にヤマト運輸との提携で設立した「統一速達」だ。
黑貓宅急便サービス開始前の準備段階で、日本のヤマト運輸から派遣された社長(総経理)と徐の意見は食い違った。日本で成功した事業を台湾に導入するのだから、最初は日本のやり方を踏襲するのが基本だ。しかし、そこに大きな落とし穴があった。
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