徐重仁は統一企業から経営に必要な機能を果たす財務、システム開発などの部署を次々と切り出し、BtoBの子会社として独立させた。それは「大企業病」を防ぎつつ、大企業が誇る資金力と経営ノウハウ、中小企業が持つチャレンジ精神と機動力を兼ね備えるための「グループ経営戦略」実現に向けた布石だった。(本文敬称略)

積極的に多角経営に取り組み始めた1994年から2000年までの第1期に、徐は約7年間でBtoCの流通(飲食・サービス)企業5社を設立。さらにBtoBの企業7社も並行して誕生させた。
統一超商には、急成長する台湾セブン―イレブンの物流・配送体制を早急に整備する必要があった。そこで99年3月に「統昶行銷」と「大智通行銷文化」、00年にトラック運送業「捷盛運輸」を設立。また、セブン―イレブンの主力商品となる弁当の開発と製造のため、99年2月に「統一武蔵野」を立ち上げた。(関連記事:「低温商品に出版物の配送 台湾セブンの物流システム、完成の域へ」)。BtoB関連の7社のうち、徐がこれら4社の設立を急いだのは、コンビニ事業に直結するため理解できる。しかし、残りの3社については話が別だ。
97年9月に企業情報管理およびコンサルティングサービス会社「統一資訊(PIC:President Information Corp)」、翌98年4月に棚卸しサービス・商品管理およびコンサルティングサービス会社「首阜企業管理顧問」、00年10月には金融ビジネスと銀行や企業の情報フローを統合する情報サービス会社「金財通商務科技」を立て続けに設立した。
これら3社の果たす役割(機能)については、統一超商内部の該当部署を拡充することで、セブン―イレブン事業の急成長に対応できたはずだ。なぜ徐はこれら3つの事業についても、早々に子会社として独立させたのか。その背景には、徐が目指した「多角化によるグループ経営戦略」実現の柱となる2つのテーマがあった。
「原点回帰」と「資産共有」だ。
自立可能な部門を切り出し、機動力を取り戻す
「原点回帰」とは、統一超商から自立可能な部門を切り出し、組織をスリム化して中小企業の柔軟性とフットワークを取り戻すこと。
「どんなに会社の規模が大きくなっても、仕事のやり方は中小企業の精神や考え方でやるべきです。原点回帰は、組織が大きくなりすぎるのを防ぎ、経営の効率を保つ最適な方法です」
企業が大きくなるほど組織の官僚化や硬直化が起こり、異なる部署間のコミュニケーションの頻度や効率が下がると徐は指摘する。
「大企業だからと慢心して、何に対してもお金と人手をかけてやるようになれば、いつかは大型恐竜のように環境の変化に素早く対応できなくなり、やがて滅んでしまう。そんな“大企業病”に統一超商が陥らないよう、自立可能な部門はできる限り独立させた」
この「大企業病に陥ることなく、中小企業の精神で仕事に取り組む」という原点回帰は、統一超商から切り出されたBtoB系の3社にも当てはまる。
「大企業の一部署であれば、よほどのことがない限り安泰なので緊張感がなくなる。しかし、独立したらスモールカンパニーの社員になるので、生き残りを懸けてそれまで以上に努力しなければならない。社員全員、中小企業の緊張感とチャレンジ精神に立ち返って働くようになります」
ただ、中小企業であることは、いいことばかりではなく、大きな弱点もあった。「企業としての体力不足」だ。そのことに徐はじくじたる思いを抱いていた。
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