流通経済発展の土台となる物流インフラを整備するため、徐重仁は3つの戦略を立てた。1つ目は物流ビジネスで自立・成長できる新会社の設立。2つ目は日本企業の資本参加で基礎技術と運営ノウハウを確保。3つ目は日本の技術に自前で開発した技術を加えて最先端の物流センターにすることだった。(本文敬称略)

中壢(れき)市の工業団地の一角にある中壢物流センター(写真奥)。出入り口の右側の建物には常温物流会社「捷盟行銷(しょうめいぎょうしょう)」の看板が掲げられている
中壢(れき)市の工業団地の一角にある中壢物流センター(写真奥)。出入り口の右側の建物には常温物流会社「捷盟行銷(しょうめいぎょうしょう)」の看板が掲げられている

 流通事業を成長させるためには、日本のように近代的な物流センターが不可欠だと徐は確信していた。しかし、1979年に台湾北部に建設した「中壢(れき)物流センター」も、80年に台湾南部に建設した「永康物流センター」も、日本のセブン―イレブンが使っている物流センターのレベルにはほど遠く、倉庫と大差ない機能しか果たせていなかった。

 この問題を解決すべく、徐が物流センターの近代化のために考えた3つの戦略の1つ目は「物流部門を会社として独立させて、コストセンターからプロフィットセンターへと生まれ変わらせること」だった。

 「私は『物流を事業としてやるべきだ』と考えていました。物流センターが統一超商の1つの部署の管轄だと『小売企業の物流部門はコストセンターだから赤字でもかまわない』という感覚に陥りやすい。しかし、独立させれば、自分たちで利益を上げなければ会社が潰れるので、社員全員、一生懸命になって努力する」

 当時、徐はセブン―イレブン事業以外の多角経営も視野に入れていた。そのため、「社内の一部門だとセブン―イレブンの物流にしか意識が向かない。セブン―イレブン以外の事業にも対応できる物流センターにするためには、事業を独立させる必要があった」

「マーケティング会社」設立、社長に友人を抜てき

 物流センターの近代化を実現する2つ目の戦略は「物流センターの開発・運営に日本の企業も巻き込むこと」だった。

 物流専門会社を設立する際、提携する日本企業について徐は「選択肢が限られていた」と振り返る。選んだのは「菱食(現・三菱食品)」だった。菱食は25年に設立された北洋商会が、三菱商事系の食品卸3社と合併して79年に発足した。統一企業は67年に創業して間もなく、家畜の飼料や食用油などの原料購入で取引があり、製粉技術の導入で日本製粉を紹介してもらうなど、三菱商事と長きにわたって協力関係にあった。

 「菱食が89年、富山県に近代的な物流センターを設立したとき、三菱商事は私と統一企業の高清愿会長と林蒼生総経理を日本に招きました」

89年7月、来日して菱食の物流センターを視察で訪れた統一超商の徐重仁総経理(後列左端)、統一企業の高清愿会⻑(前列左から二番目)、統一企業の林蒼生総経理(後列左から三番目)
89年7月、来日して菱食の物流センターを視察で訪れた統一超商の徐重仁総経理(後列左端)、統一企業の高清愿会⻑(前列左から二番目)、統一企業の林蒼生総経理(後列左から三番目)

 この見学で、高会長と林総経理は菱食の物流レベルの高さに納得。翌90年9月、資本金5000万元、資本構成は統一企業が51%、統一超商が14%、三菱商事が25%、菱食が10%で、常温物流会社「捷盟行銷(しょうめいぎょうしょう)」が設立された。「行銷」とは「マーケティング」を意味し、同社は中壢と永康の2つの物流センターを中心として、台湾セブン―イレブンの加工食品や日用雑貨などの常温商品の配送を一手に担った。

 徐は捷盟行銷の初代社長に、信頼できる友人の1人、黄惠瑛を抜てきした。黄は徐が日本に留学していたころに焼鳥屋や中華料理店で一緒にアルバイトをした仲間で、「今度、こういう仕事を始めるから一緒にやらないか」と誘った。

 副社長には三菱商事側から優秀な人材を派遣してもらった。黄は慶応大学商学部の修士課程を修了し、日本語でのコミュニケーションに問題はなかった。徐は日本人の副社長を捷盟行銷と日本側のパイプ役とすることで、日本の流通や物流の情報をリアルタイムで入手できる態勢を整えた。

 「日本人の副社長が日本のビジネスモデルを持ち込んでくれて、台湾人の社長が台湾に合うようにローカライズする。両方うまくバランスを取るための人材配置でした」

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