徐重仁が日本のセブン―イレブンに先んじて事業化したのは「コンビニコーヒー」だけではない。「イートイン」の展開も日本より早く、「新幹線乗車券の販売サービス」はまだ日本のコンビニでは実現していない。なぜこれらのサービス開発で日本を追い越せたのか。経営者としての徐の手腕と発想の原点に迫る。(本文敬称略)
米国の視察で見た驚きの光景
今では日本のセブン―イレブンでも珍しくなくなった「イートイン」のサービスも、台湾のセブン―イレブンが日本より先に始めた事例の1つだ。日本でイートインを最初に始めたコンビニエンスストアはミニストップだった。「コンボストア」の名称で、1980年の1号店から店内に飲食コーナー(イートイン)を設けていた。しかし、他のコンビニが本格的にイートインに取り組んだのは2013年から。高齢化社会、女性の社会進出、単身世帯の増加といった時代の変化による休憩スペースの需要を見越し、ファミリーマートが積極的に展開し始めた。
一方、台湾のセブン―イレブンにイートインスペースが登場したのは03年。ファミリーマートより10年も早かった。なぜ、徐重仁は日本のセブン―イレブンより先んじてイートインの導入に踏み切れたのか。
徐がコンビニのイートインサービスのインスピレーションを得たのは、00年6月のこと。米国に渡り、ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)を視察したときだった。
ホールフーズ・マーケットは、テキサス州オースティンを本拠とするグロサリーストア(食料品スーパーマーケット)のチェーン店だ。自然食品、オーガニックやベジタリアンフード、輸入食品やユニークな冷凍食品などをそろえたグルメ志向のスーパーストアとして、多くの店舗を展開していた。
徐が興味を持ったのは「スーパーなのに、購入した商品をその場で食べられるエリアが設けられていたこと」だった。
「すごいなって、びっくりしました」と徐は回想する。
「入り口のすぐのところに100席ほどのイスとテーブルの置かれたスペースがあった。お客様は大きなテーブルに置かれた量り売りの日本料理、中華料理、イタリア料理、フランス料理の総菜をバイキングの要領でトングで取って、レジで買って、店内のスペースで食べていた。コンビニだとそんなに品ぞろえできないけれど、せめてファストフードを食べられる休憩所みたいなスペースはできるんじゃないかと思いました」
台湾に戻ると徐は早速、セブン―イレブンの店内で購入した商品を飲食できるスペースの検討に入った。
メリットは3つあった。
イートインがコンビニにもたらす3つのメリット
1つ目は「新規顧客の開拓」だ。
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