新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。このビジネス環境の変化に企業はいかに対応すべきか。ヒントは新型コロナ対策に成功した台湾にありそうだ。そこで台湾にセブン―イレブンを上陸させ、「台湾の流通の父」と呼ばれる徐重仁に、2回にわたってコロナ禍への対応と日本の進むべき方向について話を聞いた。(本文敬称略)
なぜ台湾は新型コロナの感染を封じ込められたのか
連載「台湾『流通の父』 徐重仁の教え」は2020年2月にスタートした。これまで徐重仁が台湾の大手食品製造加工会社である統一企業に入社後、“サラリーマン社長”としてセブン―イレブンを台湾に上陸させ、どのようにして世界屈指のコンビニ大国の礎を築いたのか、その類いまれなるマーケティングセンスとマネジメント手腕の一端について紹介してきた。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、徐が来日することも取材班が台湾に渡ることもできず、連載の中断を余儀なくされた。
そこで取材形式をリモートに切り替え連載を再開するに当たり、「特別編」として日本の流通業にも明るい徐にコロナ禍に対する見解を聞いた。いち早く新型コロナの感染拡大を収束させた台湾から、徐は現在の日本をどう見ているのか。
米国の大手総合情報サービス会社のブルームバーグは20年7月20日、世界をリードする75の経済体による新型コロナウイルス封じ込めの成果に関する格付けで、台湾を世界一と評価した。人口およそ2300万人の台湾で、20年10月29日までの間に確認された新型コロナウイルスの感染例は553件、死者は7人、200日連続して台湾内での感染はなかった。そこで徐に台湾の流通業はどのような新型コロナ対策を展開しているのか、そして非常時におけるビジネスへの取り組みはどうあるべきかなどについて聞いた。
まず台湾が新型コロナウイルスの感染対策で成功できた理由を尋ねると、徐は「一番の要因はSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験」と答えた。
SARSはSARSコロナウイルスを病原体とする感染症。02年11月、中国広東省の患者報告に端を発し、北半球のインド以東のアジアやカナダを中心に感染が拡大した。03年7月に世界保健機関(WHO)が終息宣言するまで、32の国と地域で患者数は8400人超、死者は800人を超えた。台湾では03年9月に始まり、04年7月にWHOにより流行の終息が宣言されるまで、患者数はおよそ680人、死亡者は84人(出典:一般財団法人 海外邦人医療基金)に上った。
「あのときのことは、みんな非常にしっかり覚えていた。だから今回の新型コロナ対策でも、例えば電車やバスに乗るときはマスクを付けないと罰金が科されるなど、厳しく管理された。SARSの怖さをよく知っているので、人々は非常に緊張感を持っていた」
もう1つの理由は「台湾衛生福利部の陳時中部長のリーダーシップ」だと言う。
優秀なリーダーが活躍できた台湾の柔軟な体制
台湾衛生福利部は、台湾の社会福利および社会福祉に関する業務全般を担当する省で、日本の厚生労働省に相当する。
「陳部長は専門チームのメンバーをそろえて、毎日、テレビを通じて、現状はどうかなど、新型コロナ関連の情報を発信しました。多様なマスメディアを通じ、繰り返し、忘れないように人々への浸透を図りました」
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