台湾セブン―イレブン第500号店がオープンすると、徐重仁はフランチャイズシステム構築の最終段階に入った。最大の課題は社外の人間が加盟店の経営者にふさわしい人物かどうかを、どう判断するか。徐が採用した台湾独特のテスト法は、日米に類を見ないユニークなものだった。(本文敬称略)

トイレは清潔か、部屋は片付けられているか
直営店での実績がない社外の人間の能力や適性をチェックする方法として、徐が発案・実践したのは「家庭訪問」だった。
「住んでいる家を訪れて、親はどんな仕事をしているのか、部屋はちゃんと整理整頓されているか、トイレはきれいに清掃されているかなど、いろいろな家庭環境の情報を収集しました」
なぜ、自宅の様子をチェックすることが、加盟店の参加条件につながるのだろうか。
「台湾人は自分の事業を持ちたい、個人で経営したいという気持ちが強い。だから『セブン―イレブンのビジネスはよくできているから、加盟店になれば夢をかなえられる』という思いで応募してきます。ただ、自分の利益ばかり考えるだけで、経営センスのない人もいます。家庭がしっかり管理できているかどうかは生活習慣です。非常にきちょうめんに片付けられている家庭に育っていれば、店でも同じように整理整頓できます」
「経営者になりたい」という理由で応募してくる人たちが、コンビニの仕事をこなせるかどうかの見極めは、フランチャイズシステムで店舗展開を加速させるうえでの最重要課題だった。
「おそらく現在の本部は実施していないと思いますが、昔は家庭訪問のチェックリストが非常に重要な判断材料だったので、最初のうちは私も同行しました」
日常生活におけるきちょうめんさや管理能力が、コンビニの店長となった際の仕事ぶりに通じるのはある意味納得できる。実際、その後のセブン―イレブンの出店展開が加速したことで、「家庭訪問」が有効だったことが証明された。ただ、「最初のうち」とはいえ、台湾小売業界のトップ企業を率いる社長が自らインタビューしたり、トイレをチェックしたりする必要などあったのだろうか。
訓練施設で未経験故のリスクを減らす
「私は新しいことを始めるとき、まず自分で体験して試してみる習慣があります」と徐は答えた。「自分で体験すれば『なるほど、これはこうやればいける』とか『こうしたら課題が出てくる』など、細かな部分まで非常によく分かる。実感してすぐ部下に指示すれば、新しい取り組みの要点や注意点の指導が中途半端にならずに済みます」。全国30カ所の鉄道駅の出店事例を紹介した際に触れた「チャンスと見れば一歩踏み出す」と同じく、この「最初は自分でやってみる」というポリシーも、徐のリーダーとしての優れた資質の1つだった(関連記事「日本に先駆け『駅ナカ』へ出店 独自のコンビニ戦略を編み出す」)。
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