流通市場が未成熟な台湾でセブン―イレブンを立ち上げるという逆境に苦しみながらも、徐はコンビニ事業をなんとか軌道に乗せた。その後、セブンの店舗数で世界第3位の5000店舗に至るまで出店を加速させた第3のアプローチは、日米に前例のなかった「独自の出店戦略」の実行だった。(本文敬称略)

日本を手本としながら出発し、台湾流にローカライズし、やがて独自の発想へと徐は出店戦略を進化させてきた。駅ナカへの出店は日本に先駆けて実施した ※画像はイメージ(写真提供:MR. AEKALAK CHIAMCHAROEN/Shutterstock.com)
日本を手本としながら出発し、台湾流にローカライズし、やがて独自の発想へと徐は出店戦略を進化させてきた。駅ナカへの出店は日本に先駆けて実施した ※画像はイメージ(写真提供:MR. AEKALAK CHIAMCHAROEN/Shutterstock.com)

500店舗から5000店舗に成長させた出店戦略

 これまで見てきたように、徐のコンビニ出店戦略は小売り・流通業の発展で先行する成功事例として日米に学び、さらに両国の出店戦略で台湾の実情に合わないものはローカライズするという2つのアプローチを駆使し、1980年2月のセブン―イレブン第1号店オープンから6年後の86年4月の100号店の出店で事業全体の黒字化を果たした。

 そこからは加速度的に出店を続け、90年6月に第500号店を出した半年後、事業全体の売上高は108億元を達成。42歳の徐社長が率いる統一超商は、台湾の小売業のトップ企業となった。

 こうした成長著しい台湾セブン―イレブンの出店戦略の裏には、前述した2つの方法に加えて“第3のアプローチ”があった。それは市場のニーズに応えるべく編み出した、徐独自の出店方法だ。その代表例が「駅ナカへの出店」である。

 95年7月に台湾セブン―イレブン第1000号店、99年5月に第2000号店をオープンした徐は、2000年9月、全国30カ所の「台湾鉄道」の駅で36店舗の「セブン―イレブン・エクスプレス・ストア」を出店した。台湾鉄道は日本のJRに相当する主要鉄道だ。

 JR東日本のグループ会社であるJR東日本リテールネット(東京・新宿)が、「駅にあるコンビニ」のコンセプトで「NEWDAYS」を駅構内に登場させたのは01年10月のこと。ファミリーマートの地下鉄駅構内への初出店は02年の神戸高速鉄道の新開地駅、ローソンは03年(営団地下鉄の溜池山王駅)、そしてセブン―イレブン・ジャパンの駅構内への初出店は09年、京浜急行電鉄の駅構内の売店をセブン―イレブンへ転換してからだった。

 台湾セブン―イレブンの駅構内への出店は、日本に先んじた出店戦略と言える。なぜ、日本での前例がなかったにもかかわらず、徐は「駅ナカのセブン―イレブン」という独創的な出店を実行できたのか。ヒントは欧米にあった。

2~3坪でもコンビニ・ビジネスを成立させる

 「欧州や米国へ視察に行ったとき、駅で小さいブースのような売店をよく見かけました。こんな小規模な店でも商売が続くのなら、台湾の駅でセブン―イレブンを出せば事業として成り立つと思いました」

 確かに駅では大勢の人々が往来するので、小売りのビジネスチャンスは飛躍的に広がる。しかし出店場所が駅の構内となれば、それまでの街中への出店とは事情が異なる。

 「駅への出店は入札でしたから、選ばれれば全国30の駅へ一気に店を出せるのが大きな魅力でした」と語る徐。ただ「私たちには『これくらいのスペースが欲しい』と決められなかった」と振り返るように、全国30駅に出店した36店舗の多くは、2~3坪といった狭い場所しか与えられなかった。一般的なコンビニの広さが50~60坪で、SKU(商品管理の最小単位、品目)が2500~3000アイテムと考えると、到底、十分な品ぞろえなど望めない。

 この難問に対して、徐は「確かに商品構成では3000アイテムもいかない。そこで顧客が買い物するときの動線や駅ナカの店舗に特化した品ぞろえを工夫して、最低2坪からでも成り立つビジネスモデルを確立しました」と説明する。しかし、たとえ駅ナカの店舗に特化した品ぞろえを工夫したとしても、通常のセブン―イレブンに比べれば、アイテム数がかなり少ないことに変わりはなかった。

 それでも徐が通常のコンビニの常識を打ち破り、駅ナカへの出店に踏み切れたのは、当時の日本の状況にヒントを見つけたからだ。ただしそれは日本のセブン―イレブンの話ではなかった。日本の街中にあふれる「自動販売機」に勝算を見いだしたのだ。

 「日本では自動販売機が非常にポピュラーで、至る所に設置してありました。今でこそ台湾でも自動販売機はたくさんありますが、当時はほとんど見かけませんでした。ですから『自動販売機がだめなら、小さいセブン―イレブンをやればいい』という発想で、駅の非常に狭い場所に、私たちが“ミニセブン”と呼んでいた『セブン―イレブン・エクスプレス・ストア』を出していきました」

 たとえ2~3坪とはいえ、自動販売機に比べれば駅ナカの“ミニセブン”のほうが品ぞろえを充実させられるし、利用客の満足度も高いだろう。では、セブン―イレブンのライセンスを提供している米サウスランド社の反応はどうだったのか。

 「サウスランド社は『ロイヤルティーさえ払ってくれればいい』という感じでした。そもそも私たちは86年に統一超商が独立して以来、日本や米国のように標準化、規格化された出店スタイルを模倣してきただけではありません。街中や住宅地の他にも、大通りに面した場所から始めて、学校、病院、百貨店内など、早い段階から多様な出店ルートを開拓してきました。当時の台湾では“コンビニ”という概念が固定されてしまい、出店戦略にも弾力性がなかった。私の基本的な考え方は『ニーズがあればチャンス』です。人の流れが多いところは必ず商売になります。商品が売れるのなら、たとえ学校の中でも、工場の構内でも出店する。店の規模は場所によって決まるもの。本来、パターンなんて存在しません」

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