慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)は、デザイン思考にシステム思考を加え、さらにそれらをいかにマネジメントするかを研究している。複雑化・複合化している社会では一つの思考法だけではなく、あらゆる手法やスキルが求められるとSDMの富田欣和特任講師は言う。
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科特任講師
デザイン思考だけでなく、多くの手法が注目を集めています。
最近はデザイン思考の他にアート思考などもあり、それぞれ特徴的ですが、どの思考法が優れているかを論じても意味はないでしょう。新規事業に結び付けるには、一つの思考法だけに頼ることなく、さまざまな思考法を身に付け、「知恵」を総動員しないといけません。単に思考法の問題ではなく、あらゆるスキルが求められています。
例えば、デザイン思考で製品やサービスのアイデアを考えても、今度は事業化の段階でファイナンスの知識が問われる。ステークホルダーとの調整も必要になります。「これはどうしたらいいか」「あれも重要ではないか」と出てくる問題が多様になっています。外部企業からの相談の多くが「デザイン思考を教えてほしい」というのから「こんな状況にあるので何とか解決できないか」と切実な要求になってきているのが現状です。
ユーザーニーズを探査することはもちろん、技術のシーズベースで考えたり、ビジョンも重要になっていたりします。現在の世界はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(不透明性)といった、先を見通しにくい「VUCA」の時代といわれています。あまりにも社会が複雑化・複合化しているので、企業は手持ちの思考法やスキルといった「武器」をすべて使わないと、もはや簡単には問題を解決できなくなっています。これが企業で製品やサービスを開発する現場担当者の実感ではないでしょうか。
私が所属しているSDMでは、デザイン思考に論理的・体系的な特徴を持つ「システム思考」の考え方を組み合わせています。ここで言うシステムとは、コンピューターによる情報システムという意味ではなく、複数の構成要素が相互作用する集合体のことです。システムのマネジメントでは、多くの視点から適切な目標を立案し、環境の変化など不確定性を含む、さまざまな要因を考慮しながら総合的に運用できるようにします。新しい価値を生むアイデアを考えるだけでなく、実現のための仕組みまで構想します。
実際、技術やシステムのデザインから組織のデザイン、コミュニティーのデザイン、経営や政策のグランドデザインまで、あらゆるシステムにおける構想やソリューションの提言までも手掛けています。かなりの範囲を包含しており、デザイン思考やアート思考だけでなく、マネジメントを研究している教員もいます。
ただ、システムデザイン・マネジメントの領域について、企業の新規事業担当者が一人で全部を学ぶのは難しいでしょう。広く深い知識やスキルが要求されていることは事実ですが、そんな超人的な社員はなかなかいません。我々も限られたカリキュラムの中で、どこまで教えればいいのかを試行錯誤しているのが現状です。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー