携帯キャリアとの関係を深め、キャッシュレス決済との連係を進めて使い勝手の向上を図る4大共通ポイント。これまでは分からなかった利用者の位置情報や決済情報も集約し、顧客に対する理解をより深めて新たな価値を付与しようともくろむ。新たな会計基準で起きる会計処理の煩雑化を回避できる点を踏まえると、手数料を払ってでも導入するメリットは増しつつある。
2021年4月以降、上場企業の多くに対して国際会計基準(IFRS)への準拠が強制適用される。ポイント関連事業もその影響を受ける。ポイント付与分を売上高から差し引き、ポイントが利用された時点で売上高に計上する「売り上げ繰り延べ処理」が変更の大きな柱だ。厄介なのは、商品の価格と付与したポイントの価値の比率で売上高を配分しなければならない点。しかもその複雑な処理を、会計ごとに行わなければいけない(参考記事「マーケ部門も戦略転換必至 ポイント事業に『新会計基準』の足音」)。
「IFRSに準拠した新会計基準により会計処理が複雑になることは、共通ポイントにとって追い風」(Tポイント・ジャパン)。実は「Tポイント」や「Ponta」といった共通ポイントを手掛ける事業者の間で、こんな声が上がり始めている。というのも、新会計基準を決めた企業会計基準委員会が公開している資料のなかに、「我が国に特有な取引等の説例」として、以下のような非常に単純な会計処理の例が掲載されているからだ。
これは店舗などが、独自発行する自社ポイントではなく、他社が発行する共通ポイントを付与した場合の会計処理の仕方を示すもの。ポイント付与分を売上高から差し引く点は自社ポイントと同じだが、商品価格と付与したポイントの比率を計算する必要はないとしている。付与したポイントの価値がポイント発行会社への未払い金として認識されるため、ポイント事業者にポイント相当額を支払った段階で会計処理は終了となる。
引当金や契約負債を計上する必要がないのは、顧客が保有するポイントに対する義務を負うのはポイント事業者だからだ。もし共通ポイントが自社で使われた場合でも、ポイント利用分を売上高に含めてポイント事業者にポイント分を請求する処理を行えばよい。
ちなみに現行の会計基準でも、共通ポイントについては自社でポイント引当金を積む必要がない。新しい会計基準で変わるのは、ポイント付与時に売上高からポイント付与分を差し引く点だけ。わずかとはいえ売上高が減る処理をすることになる。ただ共通ポイント導入済み店舗にとっては、移行によって生じる手間は少なく済むのが魅力だ。
日本特有のサービスとして根付く共通ポイントを巡っては、Pontaを運営するロイヤリティ マーケティング(東京・渋谷)とKDDIが資本提携するなどここに来て動きが活発になっている。IFRS準拠のタイミングで、改めてその価値が見直されそうだ。
使い道の多さこそ共通ポイントのアドバンテージ
そもそも共通ポイントはこれまで相互送客の価値にばかり注目が集まり、新規顧客を呼び込む手段として主に導入されてきた。半面、付与したポイントが必ずしも自社で使われるとは限らず、優良顧客を囲い込む機能は弱いともいわれてきた。
ただ昨今の共通ポイント事業者の戦略を踏まえるなら、小売・サービス業などの店舗はこうした見方は一面的だと認識すべきだろう。
本特集では、新会計基準へ変更によりポイント事業が“ためる”から“使ってもらう”に戦略変更しなければならないことを紹介してきた。「使いやすいポイント」という観点で見た場合、数多くの加盟店で使える共通ポイントには大きなアドバンテージがある。
例えばNTTドコモは、15年から共通ポイント「dポイント」を手掛けているが、ドコモ以外のポイント加盟店で約6割のポイントが利用されているという。
同社は以前、「ドコモプレミアクラブ」という独自ポイントプログラムを運営していたが、たまったポイントの使い道がドコモショップでの携帯電話や付属品の購入だけに限られていた。「機種変更の機会は2年に1回くらいと限られており、ポイントがたまっていること自体に気づかなかったり、使わないまま失効したりするユーザーが多かった」(NTTドコモウォレットビジネス推進室長の田原務氏)
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