年間1兆円以上が国内で流通するポイント・マイレージ。もはや通貨のような役割も一部担いつつあるこの世界の景色が、2021年4月に上場企業が導入を迫られる会計ルールの変更でがらりと変わる。マーケティング部門にとっても戦略の大胆な変更に迫られる重要な制度変更。財務上の負担を減らすために、いかに使ってもらいやすくするか各社は知恵を絞らなければならない。いったい今、何が起きているのか。

ポイントを巡る会計制度が21年4月から大きく変わる(写真撮影/スタジオキャスパー)
ポイントを巡る会計制度が21年4月から大きく変わる(写真撮影/スタジオキャスパー)

 野村総合研究所によると、国内11業界の主要企業が発行するポイント・マイレージを推計した「年間最少発行額」は、18年度で前期比6%増の1兆21億円になったという。23年度には1兆1600億円に達する見込み。これには来店キャンペーンなど購買金額にかかわらず発行されるものや、特定の会員に対するボーナスポイントを含んでいない。「それらを含めれば、総額は1.5~2倍になってもおかしくない」(推計した野村総合研究所上級コンサルタントの冨田勝己氏)という。

2018年度のポイント・マイレージ最少発行額
2018年度のポイント・マイレージ最少発行額
18年度ポイント・マイレージ年間最少発行額の業界別内訳。主要企業の売上高にポイント適用率(ポイント制度が適用される売り上げの割合)、ポイント還元率を掛け合わせて野村総合研究所が算出

 生活に深く入り込み、消費者にとって“第2の通貨”のような存在になったポイントは、企業側から見た位置づけはあくまでも顧客に対する“おまけ”にすぎなかった。しかし、この考え方を根本的に改めざるを得ない時期が刻一刻と迫っている。21年4月から、上場企業を中心に、ポイントに関する会計処理のルールが大きく変わるのだ。

 これまでは、ポイントに関する会計処理に明確なルールはなく、一般的には引当金処理が用いられてきた。発行したポイントが実際どの程度使われるかを推定したうえで、販売促進費などとして処理。期末にはその残高を「ポイント引当金」などの科目で計上しておく。ポイントが商品などに交換された場合は、その分を引当金から差し引く。

 問題は、この会計処理方法は、国際会計基準(IFRS)とは大きく異なっていたこと。そこで、日本の上場企業の大半が加盟する公益財団法人財務会計基準機構の企業会計基準委員会は、IFRSに準拠した「収益認識に関する会計基準」を18年3月に公表。21年4月以降、強制的に適用されることを決めた。

 財務面で見れば、新会計基準になってもポイント引当金という負債の名称が「契約負債」に変わるだけで、大きな負担増があるわけではない。ただし、ポイントは売り上げからポイント付与分を差し引く「売り上げ繰り延べ処理」に移行される点にある。ポイント付与時は一時的に売上高が減少したように見えるが、ポイントが利用されればその分が売り上げにカウントされる仕組みになる。つまり、ポイントが利用されずに失効もしなければ、売り上げは回復せず、契約負債が増え続けることになる。

「付与」ばかりに重点を置いてきたポイント事業者

 結果として各社は、利用者に対してためたポイントを使ってもらう機会を増やすよう大胆な戦略変更を迫られることになる。というのもこれまでのポイントプログラムの施策は、付与でいかに客を呼び込むかばかりに重点が置かれていたからだ。

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