今回のCESはAI活用で2つの方向性が見えた。1つは新製品だけでなくAIの先端技術の発表の場となったこと。もう1つは一般企業によるAI活用をアピールする場にもなったことだ。まさに「不気味」と「死」の両方の谷を越えた感がある。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やスタートアップでなく一般企業が台頭している。
CESは家電の発表の場から自動車やスマートホームにフォーカスが移って久しい。2017年ごろからAIについては米グーグルと米アマゾン・ドット・コムなどテクノロジー大手がスマートスピーカーの使い勝手を説明し、その連携企業の製品を並べて大きなブースを構えていた。スタートアップのブースでは自動翻訳機を提供する企業が目立っていた。
こうした状況が2020年のCESでは一変した。コンシューマー向けの製品やサービスを提供する企業が自社のAI開発の先端性を披露する場になったのである。消費者の反応を見たり、さらなる連携先を探したりする目的がある。
サムスンはAIで生成したアバターを展示
今回のCESで最も注目されたAI技術は、韓国サムスン電子のシリコンバレー研究開発拠点が展示したNEON(ネオン)だろう。AIによって人の動画像を生成して、あたかも実際の人間のように話しかけてきたり、ほほ笑んだり、踊ったりしていた。
ネオンは人間らしさを実現したいわばアバターである。人間がどのような動きをするのかを学習したAIを利用して、ネオンのアバターを生成している。
サムスンはネオンの詳細を公表していないが、ディープフェイクなどと同様に、敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ぶ技術を利用しているという。
脳を模した多層の構造で映像など複雑なデータを学ぶ、ディープラーニング(深層学習)の新手法である。人間の動きから学んで正解の候補映像を生成する「ジェネレーター」と、それが偽物であると見破る「ディスクリミネイター」の2つのAIが競い合って、映像の本物らしさの精度を高めていく。高速なコンピューター技術の進化もこうしたGANの実用化を可能にしている。
会場では男性や女性、さまざまな地域や職種のアバターを登場させ、来場者を驚かしていた。ロボットが人間に似てくると嫌悪感を抱き、それを超えると親近感を抱く「不気味の谷」という現象があるが、ネオンはまさにその谷を越えた感がある。
ネオンはキックオフから1年もたっていないプロジェクトである。人と対話することでも、ネオンのアバターは学習していく。今後、AIおよび認知機能によるインタラクティブ性を高めていくなど、開発を進めていくという。
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