全米小売業協会(NRF)が主催する小売り分野の大型イベント「NRF 2020: Retail's Big Show & Expo」から流通の未来を読み解く特集。今回はマーケティングデザイン会社、顧客時間の奥谷孝司氏、岩井琢磨氏が企業と顧客とのつながり方などを軸に考察する。
NRFというリテールのカンファレンスにおいて、米マイクロソフトがキーノートを務め、巨大なブースを構える――。この一事からも、リテールが「商品を売る」という販売における終点から、「顧客を理解する」というマーケティングにおける始点へと変容しつつあることがうかがえる。
マーケティングという視点から見れば、NRFの魅力は単なる小売業の展示会ではない。新旧大小さまざまなリテール企業が登壇するだけでなく、多くのベンチャーやグローバル企業がテクノロジーをベースに小売業の抱える課題とそのソリューションを共有する場である。そこからは、リテールの課題や変化の兆し、そして新しい可能性を知ることができる。
今回我々はNRFの多くのセッションに参加し、さらに出展・登壇企業の店舗を実際にいくつか訪れて体験した。以下では、そこから感じたこれからのリテールの課題と可能性を、3つのキーワードで紹介したい。
フリクションレスとシームレス、その本質的な違い
1.「フリクションレス」
1つ目は、「フリクションレスな顧客体験を実現する」ことの重要性だ。フリクションレスを訳せば「摩擦がないこと」だ。これはオムニチャネル戦略において不可欠な要件とされてきた「シームレス」な顧客体験とは本質的に異なる。
フリクションレスはオムニチャネル研究においてもよく使われており、NRFの多くのセッションでもこの言葉が多く出てきた。そして各講演で使われていた文脈から、この2つの言葉の違いと重要性を改めて認識した。
フリクションレスは、リアルとデジタルとを融合した企業が提供するオムニチャネル環境のみを指すものではない。顧客自らがリアルとデジタルとを行き来する購買体験に、ストレスや摩擦がない状態をつくることを意味する。
つまりフリクションレスとは、各タッチポイントを顧客自ら行き来して知覚する「動的」な状態を指す。一方、シームレスとは先述の通り、企業が購買体験に必要なタッチポイントをオンラインかオフラインかを問わずつなぐという「静的」な状態を指している。
フリクションレスにおいて重要なのは、IoTデバイスや店舗といったハードウエアとアプリなどのソフトウエアが、顧客の「顧客時間」において実際にシームレスであるかどうか、そこに向き合っているかどうかである。これが登壇企業の講演を聴いて、よく理解できた。
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