アスクルの商品開発の裏側に迫る本連載。コロナ禍に見舞われた2020年の最後となる今回は特別編として、必要な人に必要なものを届ける新たな取り組み「売らないマーケティング」に迫る。マスクや消毒液が不足する中、データを駆使し、医療や介護など必要な現場にのみ商品を届ける仕組みだ。
働く人のライフラインとして、よりスムーズに必要な商品を届けられるように、データ活用の仕組みを構築してきたアスクル。「累計購入金額3兆円超」「累計オーダー数5.1億件超」「年間ページビュー12億PV超」といった、ユーザーの膨大な行動データの蓄積という強みを実証してみせたのが、コロナ禍で生まれたプロジェクトだ。
新型コロナウイルス感染症の急拡大により、マスクや消毒液といった感染予防用品が一気に市場から消えた2020年春。転売目的の買い占めなどが頻発し、ほしくても手に入らない状況に陥った。アスクルでも入荷後にすぐに完売するなど、需給のバランスが悪化。医療や介護といった本当に必要な現場に行き渡らない状態が発生したという。
「当時、人命に関わる仕事をするお客様から、悲鳴のような声が毎日のように届いていた」と、ASKUL事業本部の本部長である宮澤典友氏は振り返る。そこで、思い切った策「売らないマーケティング」を講じる決断を下した。
「売らないマーケティング」とは、感染予防商品の有無によって人命が左右されかねない施設に、メーカーなどと協力体制を取りながら優先的に商品を販売するシステム。購入者を選別することで、あえて“売らない仕組み”をつくるというものだ。「お客様の業種や膨大な行動データを持つアスクルに今求められていることは何かを追求した」(宮澤氏)。
東日本大震災時の教訓を生かして社内で思いを共有
プロジェクト始動に当たり、心理的、物理的の両面で壁があった。
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