アスクルの商品開発の裏側に迫る本連載。今回は、アスクルの主力商品の一つである「乾電池」を取り上げる。この数年、仕事の現場で多く使用するはずの乾電池の売り上げが落ち込んでいた。アンケート結果から当初の想定とユーザー使用実態との間にあるずれを発見し、商品をリニューアルした。

アスクルの「ハイパワーアルカリ乾電池PRO」。スウェーデンのデザインスタジオ「Stockholm Design Lab」がデザインした
アスクルの「ハイパワーアルカリ乾電池PRO」。スウェーデンのデザインスタジオ「Stockholm Design Lab」がデザインした

 事業所向け通信販売のアスクルはプライベートブランド(PB)のアルカリ乾電池「ハイパワーアルカリ乾電池PRO」(以下、PRO)を、20年2月21日にリニューアルした。仕事の現場に多いデジカメやトランシーバー、計測機器など大電流機器用に使用されることを想定して13年に発売された旧PROに対して、新PROには、時計やマウス、キーボードなどの小・中電流機器からデジタルカメラや計測器などの大電流機器まで長時間使用できるように改良を加えた。

 仕事で頻繁に使われる乾電池は、アスクルのユーザーの3割が購入する主力商品の一つだ。05年に発売した一般的な性能のPBアルカリ乾電池(以下、スタンダード)とPROを合わせた18年までの販売数は累計で4億本を超えた。旧PROは競合するハイパワー系乾電池と同等の性能で、価格は時期によって変動するが、20年2月の時点で単3形1本あたり50円弱と競合品よりも約30円安価なことから人気となった。

アンケートで使用実態を把握

 PROをリニューアルしたきっかけは数年前からの販売数の低下だ。背景には、仕事の現場で使われる大電流機器の減少がある。それを象徴するのがデジカメだ。カメラ付きのスマートフォンが普及したこともあり、デジカメの出荷台数はピーク時の13%程度に縮小した。こうした流れを受けて製造業や土木・建設・建設資材などの業種でPROの売り上げが減り始めた。19年第1四半期のPROの売り上げで見ると、製造業は前年の93%、土木・建設・建設資材は85%、設備工事は90%、運輸・郵便・倉庫・物流業では89%と落ち込んだ。

19年第1四半期のPROの売り上げ(対前年)
19年第1四半期のPROの売り上げ(対前年)
大電流機器を使用することの多い、製造業や土木・建設・建設資材などの業種でPROの売り上げが減った。表は主な業種のみ抜粋

 そこで 同社マーチャンダイジング本部OAPC2家電・電化消耗マネージャーの田村友尋氏は「商品スペックとユーザーの使用実態にずれがあるのではないか」と考えた。この仮説を検証するため、ユーザーアンケートを実施することにした。アスクルではユーザーニーズや不満を探るため、定期的にアンケートを実施しているが、19年6月のアンケートで、PROやスタンダードを定期的に購入しているユーザーを中心に使用実態を調べた。田村氏は、PROが大電流機器の用途で購入されていると想定していた。しかし、実際は大電流機器の用途は少なく、むしろテレビのリモコンや時計、パソコンのマウスなど小・中電流機器で多く使われていることが分かった。また機器によって乾電池の種類を使い分けているのは全体の約12%にとどまった。約78%の人が乾電池の種類にそれほどこだわらず使用していた。

PROを使用している機器
PROを使用している機器
大電流機器向けに開発したPROだが、19年6月に実施したアンケートではテレビのリモコンや時計、マウスやキーボードなどの小・中電力機器に使用しているユーザーが多かった

 またアンケートからユーザーは、PBのアルカリ乾電池に対して「価格が安いこと」(71.0%)や「長時間使用できること(長持ち)」(57.4%)に加え、「日本製であること」(41.3%)、「製造メーカーが分かる」(30.3%)を求めていることも分かった。乾電池の性能に関しては、時計やテレビのリモコンのほか、マウスやキーボードなどのパソコンの周辺機器などの小・中電流機器で長時間使用できることを求める人が多かった。「多くのユーザーは、価格が高いPROは、どの機器でも長持ちすると考えているようだ。小・中電力機器でPROを使うと十分な性能を発揮できないため、思ったよりも長持ちしないという不満につながっていた」と田村氏は語る。

 アンケート結果から、田村氏は、PROには小・中から大電流機器で長持ちし、かつ国内メーカーが製造することが必要と判断した。

PB乾電池に求める要素
PB乾電池に求める要素
PROの購入者は、「価格が安いこと」に加え、「長時間使用できること(長持ち)」「日本製であること」、「製造メーカーが分かること」を重視している

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