シニア市場を開拓するキーワード「新3K(健康、気配り、気づき)」に基づいて成功事例を分析する特集の第5回。シニアから強い支持を集める人気のスマートフォンや家電からは、商品へのポジティブな印象づくりがヒットのカギだと分かる。ただし「変化」や「進歩」への許容度は慎重に見極めたい。
「ドコモ らくらくホンシリーズ」は、NTTドコモが発売しているシニア向けの携帯電話の端末シリーズ。1999年に発売し、2012年8月からは「らくらくスマートフォン」も展開している。シリーズの販売台数は累計3000万台以上。「しんせつ・かんたん・見やすい・あんしん」という4つの考え方で設計しているため、シニアはもちろん、視覚に障害のある人でも扱いやすいという。
らくらくホンシリーズを01年から製品化してきた富士通によると、同製品はターゲットをシニアに絞り込み、携帯電話機にいち早くユニバーサルデザインの理念を取り入れたものだ。当時、携帯電話機はまだ若い世代をターゲットにしたものが中心で、50歳以上の中高年を視野に入れた開発はされておらず、50歳以上の携帯電話普及率は、40代以下に比べて格段に低かった。
「製品がないから普及しないのか」「普及しないから製品がないのか」──答えがないまま、シニア向け携帯電話機にいち早く挑戦したのがNTTドコモだったのだ。ライバルに先んじた結果が、シリーズ累計3000万台という成果につながったと言える。
NTTドコモによるとスマホ利用者は年々増加しており、60代の7割、70代の4割がスマホを使用している。らくらくホンシリーズの場合は、折りたたみのらくらくホンとらくらくスマートフォンのユーザーの割合が6:4だ(19年12月現在)。らくらくホンを利用していたシニアの多くは、スマートフォンへの移行にあたり、らくらくスマートフォンを選択する傾向にあるという。
らくらくスマートフォンを企画した理由は、簡単で分かりやすいスマホで、シニアにもスマホの楽しさを感じてもらいたかったからだ。
「同商品を企画した11年当時は、世の中にスマートフォンが普及していく最中で、スマホを購入するシニアも増えていたものの、一方で、『スマートフォンに興味はあるが、操作が複雑そう』『難しそう』という印象を持つシニアも多かった。ドコモでは、そういった声を踏まえ、すでにシニア層から好評を得ている『らくらくホン』をスマホにすることで、シニア層にもスマホの楽しさを広げようと考えた」(NTTドコモのプロダクト部の亀山博紀氏)。
どちらのタイプを選択するかは、その人の考え方やライフスタイル次第。「最低限の電話機能だけが欲しい」「同じ携帯電話を使い続けたい」という人もいれば、「スマホでアプリを活用してみたい」という人もいるからだ。
シニアに負担をかけない気配りが満載
らくらくホンシリーズに共通した特徴は3つ。
1つは、見やすさ、聞きやすさ、使いやすさ、分かりやすさを重視した「身体的配慮」。文字の大きさや見やすさ、通話の品質などにこだわることで、シニアが使いやすいデザインを心がけている。
例えば、折りたたみのらくらくホンの画面下には、「1」「2」「3」と描かれたボタンがあり、各ボタンに任意の電話番号を振り分けられる。わざわざ電話帳を開かなくても電話が掛けられるため、この機能を中心に使用しているという人もいる。
2つ目は、「シニア向けの機能」。例えば、らくらくホンシリーズでは「らくらくホンセンター」という専用のコールセンターを設けており、操作で困ったことがあればボタン1つでオペレーターに相談できる。この機能は無料で使用できるという。
3つ目は、「コンテンツの最適化」。メニュー画面やWEBサイトのトップページをシニアに考慮した作りにすることで、使いたい機能が一目で分かるようにしている。こうした細やかな「気配り」こそが、誰でも簡単に使用できる携帯電話機を生み出した。
その上で両者が大きく違うのは、変わらないことを良しとするのか、変わることを良しとするのかということだ。一般的に、高齢者ほど変化への許容度は小さくなる傾向がある。とはいえ、まったく許容しないわけではない。新規なものに対する高齢者の微妙な“距離感”に、2つの機種を展開することでカバーしているのだ。
もちろん、折りたたみのらくらくホンも時代に合わせて進化している。見やすさや聞きやすさはもちろん、振り込め詐欺などを防止する「詐欺防止機能」など、時代に合わせたアップデートも行っている。しかし、基本的な機能や操作感はiモード時代から変わらない。そうすることで、「新しいことは覚えられない」というシニアに安心感を与えることを意図している。
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