シニア市場を開拓するキーワード「新3K(健康、気配り、気づき)」に基づいて成功事例を分析する特集の第3回は、介護保険で要支援・要介護とされたシニア向けに特化した商品・サービスの成功例だ。体を動かす機会を与え、健康を守ることには、まだまだ大きくて意外な商機がある。
全国に約150カ所のスポーツクラブなどを運営するルネサンスは、2012年から介護保険制度によって要支援・要介護と認定されたシニアに特化した“ジム”を展開。19年11月末現在、直営が東京、神奈川、埼玉の首都圏に計18カ所、フランチャイズが秋田、宮城、福島、岡山、広島に計6カ所の合計24施設にまで増えている。
名称は「元氣ジム」。ジムと名乗ってはいるが、実は介護保険制度上はリハビリ特化型のデイサービス施設だ。利用者は、介護保険の要介護認定で要支援1~2、要介護1~5に認定された高齢者。加齢による衰弱や様々な疾患によって、膝や腰などに痛みがあってつえを手放せない人や、まひなどの後遺症のある人、骨折などの術後のリハビリをする人たちが通っている。
利用者は要支援1、2と要介護1、2がほぼ半数ずつだが、要介護3~5の人もいる。サービスを受けられる回数は、要支援は週1~2回、要介護は1~3回。元氣ジムでは午前と午後の2回サービスを提供しており、1施設当たりの定員は150~200人ほどだ。利用者集めのポイントは、「元氣ジム」を出店後にその地域の地域包括支援センターなどで働くケアマネジャーたちに積極的に声をかけて、まずは見学をしてもらうことだ。ルネサンスの鈴木有加里執行役員アクティブエイジング部長は、「ケアマネジャーが介護認定者の中で、リハビリをしたほうがいいと思われる人を今度は見学に連れてきて、本人が気に入れば通っていただく。どのジムもオープン後1年以内にほぼ定員いっぱいになる」と話す。
デイサービスは自治体から指定を受ける認可事業。生活指導員や看護職員、介護職員、機能訓練指導員などの人員配置基準や、機能訓練室や静養室、相談室、事務室、トイレなどの設備基準があり、開設要件が法律で定められている。そのため需要が見込まれるからといって、一気に多店舗化を進めることは難しい。ルネサンスでは看護師や理学療法士などの確保に努めながら、地道に多店舗化を進めている。19年は4月と9月に直営施設を計3カ所開設し、20年早々にも直営2カ所を開設する予定という。
スポーツクラブ会員の30%がシニア
「元氣ジム」を始めたきっかけはもともと、ルネサンスの本業であるスポーツクラブの会員の30%が60歳以上とシニア世代が多く、彼ら向けのカリキュラムやプログラムを取りそろえていったことだった。そのノウハウを生かして、05年ごろから、自治体を対象に健康づくり支援事業を展開。現在、同社の施設や自治体の保健センター、役所の会議室などを使った「介護予防教室」を、全国で年間約1200回開催している。
「介護予防教室を開く中で、介護認定を受けられた方々にもリハビリや運動機能改善のお手伝いができるのではないかと考え、デイサービス事業として『元氣ジム』を始めることを決めた」(鈴木執行役員)
デイサービスは、介護認定者を送迎車で自宅まで迎えに行き、施設で過ごした後、自宅へ送り届ける日帰りサービスだ。一般のデイサービスは、昼食をとって入浴し、午後はカラオケやゲームなどを楽しんで半日ほど過ごす。家族のために介護が必要な高齢者を預かるという側面が強い。一方、元氣ジムでは送迎はするものの昼食や入浴サービスは提供せず、リハビリと運動に特化している。つまり、利用者の「健康」維持への欲求に応えている点が、既存のデイサービスとは明確に異なる部分だ。利用者の自己負担額は所得に応じて1~3割と異なるが、自己負担額が仮に1割なら、要支援の場合で 1日当たり360円。要介護の場合で1日当たり500円となる。
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