シニア市場を開拓するキーワード「新3K(健康、気配り、気づき)」に基づいて成功事例を分析する特集の第2回。買い物弱者の支援サービスを全国展開するとくし丸は、今や6万~7万人のシニアへのラストワンマイルを手中にした。シニア客開拓の秘訣は、徹底したアナログ営業だった。

移動販売車とくし丸。“買い物弱者”にとってなくてはならない存在だ
移動販売車とくし丸。“買い物弱者”にとってなくてはならない存在だ

 「足腰が弱って、外出するのもつらい」「もう車の運転はできないのに店は遠く、交通手段がない」──そんな“買い物弱者”の高齢者の家の前まで、生鮮食料品や日用品などを届ける移動スーパーを展開するとくし丸が急成長している。本格的な冷蔵設備を搭載し、肉、野菜、果物、パンやお菓子、寿司や惣菜など、400品目の商品を積んだ軽トラックで週に2回、利用客の自宅家までやってくる。2012年創業当時、たった2台だった事業が、2020年3月末には全国で500台を突破する見込みだ。

 移動スーパーといっても、とくし丸自身が仕入れや販売を行うわけではない。とくし丸は本部として各地域のスーパーマーケットと契約し、ブランドやノウハウなどを提供する。実際に移動販売車「とくし丸」を運行するのは「販売パートナー」と呼ぶ個人事業主で、自分で車両を購入し、地域スーパーと契約を結ぶ。

 販売パートナーは商品をスーパーから仕入れるのではなく、販売代行する形になるので仕入れに伴うリスクがない。売り上げの17%が販売パートナーの収入となり、さらに移動販売にかかるコストの対価として「+10円ルール」を採用している。商品1点につき、店頭価格に10円を上乗せして客に払ってもらうのだ。これは5円ずつスーパーと販売パートナーに還元される。現在、全車の日販平均は8万円以上。人によっては12万円を超えるという。

本格的な冷蔵設備を搭載し、生鮮食料品から日用品まで400品目の商品を、荷台いっぱいに積み込んで家の前まできてくれる
本格的な冷蔵設備を搭載し、生鮮食料品から日用品まで400品目の商品を、荷台いっぱいに積み込んで家の前まできてくれる
とくし丸稼働台数推移
とくし丸稼働台数推移

全国6万~7万人のシニアに直接リーチ

とくし丸の事業の仕組み。売り上げの17%が販売パートナーの収入になる
とくし丸の事業の仕組み。売り上げの17%が販売パートナーの収入になる

 とくし丸はフランチャイズチェーンではない。契約スーパーからのロイヤルティーは、販売車1台につき月3万円という定額制。売り上げが上がれば上がるほど利益はスーパーと販売パートナーに還元される仕組みだ。

 「フランチャイズというのは、加盟者が頑張れば頑張るほど本部が儲かる仕組み。そういうものにはしたくなかった」と、とくし丸代表の住友達也氏は言う。創業前にはいろいろな人に意見を聞いたり相談したりしたが、知り合いの経営者からは「絶対に歩合制にしたほうがいい」「みすみす儲かるチャンスを手放すなんてバカじゃないのか」と散々に言われたという。

 しかし、「開業のハードルを下げ、異業種の人でも参入しやすい環境をつくることで数を増やし、事業を一気に全国に広げたかった」(住友氏)。そうすることで「とくし丸はメディアになる」と住友氏は言う。

 住友氏は1981年、23歳で徳島市のタウン情報誌「あわわ」を創刊。以降2003年までメディア事業の経営に携わってきた。一度セミリタイアした後、第2の創業として取り組んだのが移動スーパーだった。コンビニやスーパーのなかには独自に移動販売に取り組んでいるところはあるものの、どこも苦戦していた。自社の物販の延長で考えていたのでは、コストも手間もかかり、ビジネスとして成立させることは難しい。

 商品供給と訪問販売を分離することで、スーパーが車両を保有しドライバーを雇用するリスクと、個人事業主が商品を自ら仕入れることに伴うリスクをうまく回避し、それぞれにメリットがある仕組みをつくり上げたのがポイントだ。これにより、地元に数店舗しかない小さな規模のスーパーでも、移動販売の導入が可能になった。

 とくし丸は、売り上げが伸びても本部が儲かるわけではない。今でこそ黒字化しているが、立ち上げ当初の3年間は住友氏自身、ずっと給料ゼロで、事業は毎年赤字だったという。それでもなぜ続けてきたのかというと、買い物弱者というニーズが目の前に確実にあるのに、誰もそのニーズにちゃんと応えることをやっていなかったからだという。しかも、このニーズは今後10~20年は増え続ける。「それぞれの地域のお金と人で回していけて、地域のことは地域で解決できる、持続可能な仕組みをつくりたかった」(住友氏)。

 顧客開拓は、アナログだ。まず、1台が週に3ルートを回るのが基本で、例えば月木、火金、水土で別々の場所に行く。お客の側からみると3日に1回ということになる。最初に、ルートとスケジュールを設計する。そして、実際にルートを回ってみて、どれくらいのお年寄り世帯があるかを調べる。

 ただ数をカウントするだけでなく、「こんなサービスを始めますけど利用してもらえますか」と、1軒1軒訪ねて声を掛けて回る。「欲しいものはありますか」など顔を合わせて声をきく。そうやってニーズを見極め、認知度を高めたうえで開業するのだ。

 開業後も丁寧に要望を聞いて、「あれが欲しい、これが欲しい」ということであれば、商品を追加する。商品点数はオフィシャルには400品目、1200点だが、実際にはもっと増えていくこともあるそうだ。チラシももちろん配るが、実際に1軒1軒訪問し、お年寄りと直接コミュニケーションすることが、このビジネスのポイントなのだ。

 そうして地域に根付いて信頼されるネットワークが、とくし丸という一つのブランドの下に出来上がる。「500台のとくし丸で、全国6万人から7万人のシニアに3日に1回、直接会話できる。メディアの読者数として考えれば、これは相当な数だ。個人宅を直接訪問して、嫌われないどころか喜ばれる、こんな商売は他にはない。人によっては、実の⼦供や孫より販売パートナーと顔を合わせる回数のほうが多く、信頼関係を築ける」(住友氏)。

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