※日経トレンディの記事を再構成

2025年の崖」「2021年問題」「Amazon Sidewalk」「アンビエント・コンピューティング」「HR Tech」「AIセキュリティー」「オンデバイスAI」「スマート農業」「エッジコンピューティング」……。これらをすべて説明できるだろうか? 技術革新のスピードはさらに加速している。時代に取り残されないためにも、2020年に押さえておきたい最新のキーワードを集めた記事の前編(後編はこちら)。

【2025年の崖】

 デジタル技術を活用することで、既存のビジネスの枠を超える革新的なイノベーションを創出するとする「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、あらゆる業種・規模の企業で推進されている。しかし、今後の企業の発展を阻害する要因の一つとして、経済産業省の「DXレポート」で指摘されているのが「2025年の崖」問題だ。

 デジタル黎明期に作られ、老朽化が進んだ基幹系システムが企業の足かせとなるというもので、今後、システムを構築した技術者が次々に退職することで企業リスクが増大。現状の技術者も老朽化したシステムの管理にストレスを抱え、その結果として転職者が増えるなど人材不足もさらに進行する。こうした問題がピークを迎えると予測されているのが25年だ。

 DXレポートでは、18年には4兆円だった、老朽化したシステムのトラブルによる経済的損失が、25年以降は最大12兆円/年に膨らむ可能性があるとし、早急なシステムの刷新が必要と警告。25年から運用する場合の準備期間を20年までと設定している。つまり、「2025年の崖」のリスクを防ぐには、一刻も早くDXに取り組む必要がある。

●老朽化するシステムがリスクに
●老朽化するシステムがリスクに
老朽化したシステムとIT人材の不足は企業の足かせとなる。経済産業省の資料「DXレポート」を基に編集部で作成

【2021年問題】

 少子高齢化による働き手の不足は、現代日本における大きな社会問題となっている。浜銀総合研究所のリポート「Economic View No.11」では「新卒採用の2021年問題」を提唱。近年横ばい圏内だった、大学を卒業して企業で働き始める人(22歳新卒)の人口が、2020年代から再び減少トレンドに入るという予測から、22年3月卒の就職活動時期となる21年ごろから多くの企業で採用内定者を確保しにくくなっていくと警鐘を鳴らしている。

 こうした2021年問題の到来を目前にして、働き手不足に悩む多くの企業は労働環境の改善やテレワーク・在宅勤務などの働き方改革を迅速に進める必要が出てきている。柔軟なワークスタイルを取り入れて、転職者や結婚退職者などの中途採用を増やすケースも増加。従来のような新卒一括採用の見直しも進み、通年採用の企業も増えているのが現状だ。

 様々な世界的リスクの増大で景気の減速も予測される現在、人材不足でビジネスの停滞を余儀なくされた企業は存亡の危機に立たされることになる。新卒・中途を含めた人材の獲得競争は、今後ますます加速していくはずだ。

【Amazon Sidewalk】

 19年9月にアマゾンが発表した「Amazon Sidewalk」は、IoT向けの新たな通信技術。Wi-Fiやブルートゥースが抱える“カバー範囲が狭い”という問題を解消する低帯域幅の無線接続ネットワークだ。アマチュア無線などで使われている900MHz帯の電波を使用し、低消費電力ながらも遠距離通信を可能にした。Amazon Sidewalkを採用した製品としては、20年にペットの行動を追跡できるトラッカー「Ring Fetch」が発売される予定。Wi-Fi、ブルートゥース、5Gといった通信規格ではカバーしきれなかった領域を埋める技術だ。

Amazon Sidewalkを利用したソリューション「Ring Fetch」は飼い犬の行動を追跡可能。20年の発売を予定している
Amazon Sidewalkを利用したソリューション「Ring Fetch」は飼い犬の行動を追跡可能。20年の発売を予定している

【アンビエント・コンピューティング】

19年9月にアマゾンが発表した「Echo Frames」はマイクとスピーカーを搭載し、ハンズフリーでAlexaを利用できる眼鏡だ
19年9月にアマゾンが発表した「Echo Frames」はマイクとスピーカーを搭載し、ハンズフリーでAlexaを利用できる眼鏡だ

 コンピューターの活用というとPCやスマホなどのデバイスを操作して行うのが一般的で、デバイスを扱うための最低限のスキルが必須だった。このデバイス中心の使い方を変革するのが、「アンビエント・コンピューティング」という考え方だ。

 アンビエント(Ambient)とは「環境の」「周囲の」という意味。アンビエント・コンピューティングは、デバイス中心ではなく、環境(周囲)からコンピューターの恩恵を受けられることを指す。スマートスピーカーなどの音声アシスタント機能もその一例といえる。音声で家電製品を操作したり、ドアの鍵を閉めたりといったスマートホーム的なものにとどまらず、指示が無くともユーザーの行動を予測して各種操作を自動実行するような世界を目指している。ユーザーがどこにいても音声アシスタントの機能を使える、アマゾンの「Alexa Everywhere」構想もアンビエント・コンピューティングの一種だ。

【HR Tech】

 Human Resources、すなわち“人事”とテクノロジーを掛け合わせた造語で、人事分野におけるITの活用全般を指す。フィンテックやエドテックといった「○○×Tech」のなかでも、近年世界的に注目が高まっているキーワードだ。

 HR Techの範囲は人材の採用から育成、評価、さらに労務分野の領域まで幅広い。企業の人事部と応募者の双方に大幅な効率化をもたらす採用管理システムをはじめ、各種研修を効率化して優れた人材を育成する学習管理システム(LMS)やバックオフィス業務を自動化する労務・給与管理、勤怠管理システムなどの最新サービスが続々と登場してきており、導入を進める企業は増加傾向にある。クラウドを利用したSaaS(Software as a Service)型のソリューションが多く、モバイルデバイスの活用も進んでいるなど、ITトレンドとの相性が良いのも注目が集まる要因の一つだ。HR Techが浸透すれば人事関連データの蓄積も進み、AIを利用したビッグデータ分析で新たなイノベーションも期待できる。

【AIセキュリティー】

 クラウド、モバイル、IoTといったITの進化により、あらゆるシーンで情報が収集できるようになった現代において、AI技術を活用する場も広がりを見せている。セキュリティー分野もその一つで、高度化・複雑化が進むサイバー攻撃を防ぐためにはAIの活用が不可欠となりつつある。標的型攻撃やランサムウエアなど、特定の組織を狙った金銭目的の脅威が増加する状況では、従来のようなマルウエア対策だけでは十分とはいえない。機械学習とAIを利用して高度な脅威の検知と防御を実現し、未知の脅威にまで対応するセキュリティー対策が求められている。セキュリティー担当者のリソースが限られている状況下で、組織内のPCやサーバーだけでなく、IoTやクラウドサービスなども防御するにはAIのサポートが不可欠だ。

 近年では、AIや機械学習、ディープラーニングプラットフォームを活用したセキュリティーソリューションも一般的なものとなった。サイバー攻撃の防御や予測分析をはじめ、マルウエアやウイルスなどに感染した場合の自動対応支援など、様々な状況におけるリスク軽減を実現。さらに、顔認証システムや移動追尾システムなど、現場にあるカメラを活用したセキュリティー対策にもAIの技術が活用されている。

 このように、AIとセキュリティー対策は密接な関係を持つようになったが、実はAIの進化は攻撃者にも恩恵をもたらしていることにも注意が必要。AIによる分析でセキュリティーを突破しハッキングを行うなど、AI技術を悪用したサイバー攻撃も登場してきている。攻撃側と防御側の双方がAIの活用を模索していく状況は今後も続いていきそうだ。

【オンデバイスAI】

 AIには、処理をクラウド上で行うタイプと、デバイス上で行うタイプの2つが存在する。AI専用チップを搭載するグーグルのスマートフォン「ピクセルシリーズ」は後者の「オンデバイスAI」の製品だ。

 エッジコンピューティングの概念にAIを組み合わせたオンデバイスAIはネットワークを介さずに利用できるため、リアルタイム性が高い。また、データをクラウドにアップロードしないため、プライバシーを担保できるなど数々のメリットを持っている。スマホに搭載されたオンデバイスAIは、カメラ機能に活用されるケースが多く、AIによる環境の検出や最適化で高品質の写真が簡単に撮影できるようになる。もちろん音声認識など、様々な処理にも利用可能だ。

オンデバイスAIを活用して高精度な写真撮影を実現しているGoogleの最新スマートフォン「Pixel 4」
オンデバイスAIを活用して高精度な写真撮影を実現しているGoogleの最新スマートフォン「Pixel 4」

【スマート農業】

 フィンテック(金融×IT)やフードテック(食×IT)、エドテック(教育×IT)など、特定の分野におけるテクノロジーの活用が注目を集めているが、その一つがアグリテック(農業×IT)、いわゆる「スマート農業」と呼ばれる新たな分野だ。

 他業種と同様、少子高齢化による人手不足が深刻な農業分野では、ITの活用が急速に進んでいる。IoTを活用した農業向けのセンシング技術をはじめ、農業用ドローンによる農作業の自動化、AI技術を利用した生産の効率化・高品質化や農業技術の継承など、農業現場の課題を解決するためのテクノロジー活用範囲は多岐にわたる。IT企業が農業に参入するケースも増えてきており、先進テクノロジーを効果的に活用できる分野として注目度は高い。ビッグデータ分析による“見える化”も可能となり、農業経営の安定化を実現。近年では、生産者から流通、小売り、消費者までをつなぐ「食のサプライチェーン」にITを活用する動きも活発化しており、ブロックチェーンを活用した管理システムなどトレンドサービスが向上し、流通の透明化も進行している。

 ITが広く浸透したことで、ベンチャー企業や新規就農者の参入ハードルは下がっており、人材確保や収益増加も実現してきている。稲作・穀物・野菜・果樹などの分野だけにとどまらず、畜産農業向けのソリューションも増加してきており、ITによる省力化・安定化・高品質化といった効果は農業分野全体に広まりつつある。

「ゼロアグリ」(ルートレック・ネットワークス)は、ハウス作物の育成状況をAI分析し、成長に合わせて水や肥料を自動調節する
「ゼロアグリ」(ルートレック・ネットワークス)は、ハウス作物の育成状況をAI分析し、成長に合わせて水や肥料を自動調節する

【エッジコンピューティング】

 クラウドとIoTの普及により、あらゆるシーンでリアルタイムデータの収集が可能となった現在、製造現場のデジタル変革も進んでいる。収集されたデータは機械学習などAIで分析・活用するのが一般的となるが、クラウドに接続するデバイス数が加速度的に増大していることもあり、ネットワークの混雑で効率的な活用ができなくなるケースも出てきている。

 こうした課題を解決するため、近年ではエッジコンピューティング(エッジテクノロジー)に注目が集まっている。IoTを使って現場の情報を収集し、クラウド側で処理を行うクラウドコンピューティングから、データを収集する現場に近い位置(すなわち“エッジ”)で処理を行うエッジコンピューティングに移行することで、リアルタイム性の高い処理を実現。ネットワークトラフィックの混雑解消から通信コストの削減、さらに情報漏洩リスクの軽減などセキュリティー対策にまで効果を発揮する。クラウドコンピューティングの活用は今後も進むが、エッジ側での処理が必要となるシーンではエッジコンピューティングが活用されるなどすみ分けが進んでいくはずだ。マイクロソフトが提供を開始したIoTデバイス向けOS「Windows 10 IoT」や「Windows Server IoT 2019」「Azure IoT Edge」といったソリューションも、エッジコンピューティング向けに開発された製品となる。ドローンやコネクテッドカー分野でもエッジ側での処理が重要となってきている。

エッジ側に構築したサーバー上で処理を行うことで、ネットワークトラフィックの影響無しでデータを活用できる。クラウドとの通信はエッジサーバーから行うので安全性も高い
エッジ側に構築したサーバー上で処理を行うことで、ネットワークトラフィックの影響無しでデータを活用できる。クラウドとの通信はエッジサーバーから行うので安全性も高い
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