※日経トレンディの記事を再構成

Society 5.0」「DigitizationとDigitalization」「次世代リチウムイオン電池」「ディープフェイク」「ハイパー オートメーション」「BMI」「ヒューマン オーグメンテーション」「富岳」「量子コンピューター」「Wi-Fi 6」……。これらをすべて説明できるだろうか? 技術革新のスピードはさらに加速している。時代に取り残されないためにも、2020年に押さえておきたい最新のキーワードを集めた記事の後編(前編はこちら)。

【Society 5.0】

 狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く未来社会の在り方として、日本政府が策定した「第5期科学技術基本計画」で提唱された政策が「Society 5.0」。これまでの情報化社会をさらに進化させ、現実世界(フィジカル空間)の情報を仮想世界(サイバー空間)に取り込み、蓄積されたビッグデータをAIが解析。ロボットなどのテクノロジーを介して現実世界にフィードバックする。これにより、社会的な課題の解決と経済的発展を両立させ、人間中心の超スマート社会を実現することを指す。

 現代社会の課題にも対応する包括的な政策のため、様々な省庁が関連している。15年の国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」との親和性も高く、ドローン、AI、自動走行といった先進テクノロジーの効果的な活用を考えるうえでも見逃せないキーワードといえる。

【DigitizationとDigitalization】

 デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業が変化し続けるビジネス環境に対応して、顧客や社会のニーズに合わせた製品やサービスを提供するために必要な手段といえる。ITインフラの刷新から組織の変革、経営層・従業員の意識改革まで、DXの範囲は多岐にわたるため、どこから取り組めばいいのか悩む企業も少なくない。

 DXの推進=デジタル化と定義し、ペーパーレス化やコミュニケーションツールの導入などを進めるケースも多いが、こうした“アナログ”で作られた情報を“デジタル”データに置き換えるデジタル化は一般的に「Digitization(デジタイゼーション)」と呼ばれる。ただ、これだけではDXの実現は難しい。企業が進化するためには最新のデジタル技術を活用して新たなビジネス価値を創出する「Digitalization(デジタライゼーション)」への取り組みが必要となる。

 デジタライゼーションは、ビジネスモデルやビジネスプロセス全体をデジタル化する。いわばビジネス志向のIT活用であり、デジタイゼーションとは異なり企業のIT部門だけでは推進することが難しい。業務部門とIT部門の連携、さらには経営層の理解が重要となるが、DXを実現させるためにデジタライゼーションは不可欠なもの。デジタイゼーションでデジタル化した情報から、デジタライゼーションで“新たな価値”を生み出す流れを早急につくり上げなければ、企業の持続的な成長は見込めないだろう。20年には500億台のデバイスがインターネットに接続されると予測される現在、デジタライゼーションの推進とDXの実現はあらゆる企業にとって喫緊のタスクといえる。

【次世代リチウムイオン電池】

 スマートフォンからタブレット、ノートPC、ドローン、電気自動車(EV)まで、バッテリーを利用するあらゆる機器にとってのブレイクスルーとなるのが「次世代リチウムイオン電池」だ。現在主流のリチウムイオン電池の開発に貢献した旭化成名誉フェローの吉野彰氏のノーベル化学賞受賞は記憶に新しい。ただ、最新のテクノロジーを十二分に活用するためには、現在のリチウムイオン電池を超える性能のバッテリーが不可欠。より長持ちし、より軽量で充電時間は短く、過酷な環境でも安全に利用できる次世代バッテリーが渇望されている。

 現在、最も注目されている次世代バッテリーは「全固体電池」だ。リチウムイオン電池の電解液を固体電解質に置き換えたもので、高出力に加え安定・安全性の向上、充電時間の大幅な短縮を実現。EV(電気自動車)市場で特に注目されており、トヨタ自動車は20年代前半の実用化を目指している。19年10月に開催された「CEATEC 2019」において、村田製作所が出展した全個体電池が「CEATEC AWARD 2019」経済産業大臣賞を受賞するなど、実用化も見えてきた。

 EVやドローンはもちろん、スマホなどのモバイルデバイスや各種センサー(IoT機器)といった小型の機器にも利用可能。バッテリーのブレイクスルーは、太陽光発電など自然エネルギーの蓄電にも不可欠なもので、環境問題の観点からも重要な意味を持つ。リチウムの代わりにナトリウムを使用する「ナトリウムイオン二次電池」など全個体電池以外の次世代バッテリーも開発が進んでいる。

村田製作所の全固体電池は小型ながら高容量を実現。CEATEC AWARD 2019 経済産業大臣賞を受賞した
村田製作所の全固体電池は小型ながら高容量を実現。CEATEC AWARD 2019 経済産業大臣賞を受賞した

ボディーマス指数じゃない! もう1つの「BMI」

【ディープフェイク】

 AIや機械学習などの先進テクノロジーが生活を豊かにし、ビジネスを加速させる一方で、そうした技術が悪用されるケースも増えてきている。特に、人物の顔など、写真や動画の一部を差し替えて偽の映像を作り出す「ディープフェイク」は、ディープラーニング(深層学習)を利用することで急速に高度化しており、本物の映像と見分けがつかなくなりつつある。政治家や著名人に虚偽の発言をさせるような政治的動機のフェイクニュース的な動画も登場してきており、社会的なリスクと化している。

 AI技術の進化に合わせ、検出できないほどリアルなディープフェイク動画が出現すると考えられており、法の整備を含め迅速な対応が求められている。19年9月には、Facebookがマイクロソフトなどと共同で、機械学習を通じてディープフェイクを検出するツールの開発を目指す「Deepfake Detection Challenge(DFDC)」の立ち上げを発表するなど、問題解決のための動きも活発化している。

【ハイパー オートメーション】

 「オートメーション(自動化)」は、これからのテクノロジー活用を考えるうえで欠かすことのできないキーワードといえる。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して定型業務の自動化を図る企業は増加傾向にあるが、米ガートナー社が発表した20年の戦略的テクノロジートレンドのトップ10に選ばれた「ハイパーオートメーション」も今後注目すべきキーワードだ。

 ハイパーオートメーションはRPAをさらに拡大したもので、AIや機械学習を利用し、これまで人が行っていた作業をRPAにより幅広く自動化する。検出、分析、設計、測定、監視、再評価を含む高度な自動化を実現し、人手の必要な作業のデジタル化、すなわち「デジタルツイン」(現実空間と同じものを仮想空間にコピーしたもの)を作成する。自動化範囲の拡大や、自動化ツールの相互連係などがポイントとなり、エッジコンピューティングなどのテクノロジーと組み合わせることで、新時代のオートメーションが実現する。

【BMI】

 脳の活動を利用して機器の操作などを行うBMI(Brain Machine Interface:ブレイン・マシン・インターフェース)は、1970年あたりから研究が進められてきた技術だが、2000年代に入ってから世界的に投資が拡大。医療・ヘルスケア分野はもちろん、教育や生活など様々なシーンで活用できるテクノロジーとして注目を集めている。人工義手、人工内耳、人工網膜など人体の機能補完・強化や、脳波から音声やテキストを出力するといったサイエンスフィクションのような活用までが実現しつつある。現在は難病治療など医療分野での活用が先行しているが、ロボット工学やセンサー技術の進化と連動することで、他の分野でも革新的なイノベーションを生み出す可能性を秘めている。

【ヒューマン オーグメンテーション】

 東京大学教授でソニーコンピュータサイエンス研究所副所長の暦本純一氏が提唱したコンセプトである「ヒューマンオーグメンテーション」は、人間の能力をテクノロジーによって増強・拡張させるもので、「人間拡張」とも呼ばれる。仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、情報テクノロジー、ロボット技術、AIなどを活用して、人間が本来持っている能力を拡張する。拡張対象は身体能力(外骨格、義手・義足など)から知覚(視覚や聴覚の強化、感覚置換など)、認知能力(三人称視点への変化など理解・習得プロセス全体の拡張)、存在(テレプレゼンスのような遠隔地からの作業など)など多岐にわたり、障害者や高齢者のサポートにも活用される。

 製造現場でウエアラブルデバイスを装着して安全性を向上させたり、サービス業などで顧客に新たなユーザー体験を提供したりと、ビジネスでの利用も期待されている。

空気圧式の人工筋肉を採用した「マッスルスーツEvery」(イノフィス)。価格が10万円台と手ごろなのも魅力だ
空気圧式の人工筋肉を採用した「マッスルスーツEvery」(イノフィス)。価格が10万円台と手ごろなのも魅力だ

グーグルの発表で量子コンピューターが現実に?

【富岳(ふがく)】

 科学的課題や社会的課題の解決に、今やスーパーコンピューターの計算能力は不可欠といえる。

 文部科学省が推薦している次世代スーパーコンピュータープロジェクトの一環として開発され、12年9月から19年8月まで稼働していたスーパーコンピューター「京(けい)」は、様々な企業・研究機関が産業利用枠・一般利用枠などで使用され、高度な計算能力を必要とする課題の解決を支援した。

 19年5月には、京の後継機として開発されているスーパーコンピューターの名称が「富岳(ふがく)」に決定。文部科学省のFLAGSHIP 2020 Projectの下、理化学研究所と富士通が共同で開発中の富岳は京の100倍のアプリケーション実効性能を実現しており、21年の運用開始を目指している。その目的は、現代社会の課題と科学分野における重要問題の解決。健康長寿社会の実現、防災・環境問題、エネルギー問題、産業競争力の強化、基礎科学の発展といった重点課題に取り組んでおり、そこで培われたノウハウは様々な分野の課題解決に役立てられると期待されている。

 ITが進化し、高度な計算能力をクラウド上から利用できるようになった現在では、スーパーコンピューターの活用シーンが広がっている。最高峰のパフォーマンスを持つ富岳が本格運用される近未来は、様々な分野で革新的なイノベーションが生まれる可能性を秘めている。

【量子コンピューター】

 0と1で示すビット単位で演算を行う現在のコンピューターとは異なり、「重ね合わせ」の概念を用いた量子ビットという単位を使う「量子コンピューター」は、最新のスーパーコンピューターも比較にならないほどの処理能力を持つ。実現性の低い“夢の技術”と考えられていたが、従来のスーパーコンピューターでは約1万年かかる計算を量子コンピューターが数分で解き「量子超越性」を実証したとグーグルの研究チームが19年10月に発表。にわかに注目が高まっている。

 実際に量子コンピューターが実用化されるまでには、まだまだ長い時間が必要と考えられているが、グーグルの発表で実現の可能性が出てきたことは確か。現在のコンピューターの処理能力に限界が来ている状況で、卓越した処理能力に加え、消費電力を抑えて低コストで運用できる量子コンピューターの必要性は極めて高い。

グーグルが開発した量子プロセッサー「Sycamore(シカモア)」。実験結果について他社が異議を唱えるなど、新たな議論が始まっている
グーグルが開発した量子プロセッサー「Sycamore(シカモア)」。実験結果について他社が異議を唱えるなど、新たな議論が始まっている

【Wi-Fi 6】

 標準化団体の米国電気電子学会(IEEE)が策定し、無線LANの業界団体Wi-Fiアライアンスによって認定された次世代の無線LAN規格「Wi-Fi 6(802.11ax)」の標準化が迫っている。既にスマートフォンやタブレット、ノートPC、Wi-Fiルーターなどの対応製品が発売。20年から本格的に普及が進むと考えられている。前規格の「IEEE802.11ac」までは「IEEE802.11xx」という表記ルールだったが、Wi-Fiアライアンスが「Wi-Fi +(世代ナンバー)」という分かりやすい表記とすることを18年に決定。Wi-Fi 6は第6世代のWi-Fi規格ということになる。

 Wi-Fi 6は従来のWi-Fi規格との互換性を保ちながら、最大9.6Gbpsの高速通信に対応。速度だけでなく安定性が強化されているのが特徴で、多くのデバイスが存在する環境においてもつながりやすく、遅延も最小限にとどめる技術が採用されている。このため、一般家庭はもちろん、店舗やオフィス、学校の教室といった高密度の環境において優れたユーザーエクスペリエンスを実現する。

 次世代のセキュリティー規格「WPA3」や、公衆無線LANの安全性向上を目的とした新規格「Wi-Fi CERTIFIED Enhanced Open」の普及と併せ、新時代のWi-Fiが体験できる日も遠くはない。Wi-Fi 6は無線LANに接続するデバイス数の増加に対応した規格といえ、第5世代移動通信システムの「5G」と共に、モバイル生活やビジネスに新たなイノベーションを創出することが期待されている。

新たに世代ナンバーが採用されたWi-Fi規格。最新のWi-Fi 6は安定性が高く、接続端末数が多くても快適な通信を実現する
新たに世代ナンバーが採用されたWi-Fi規格。最新のWi-Fi 6は安定性が高く、接続端末数が多くても快適な通信を実現する
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