※日経トレンディ 2020年1月号の記事を再構成
厳選したキーワードから、近未来の日本に起きることを予測する特集の5回目は「アバター」。誰もが自らの“分身”を操り、“瞬間移動”できるという夢のようなテクノロジーだ。この開発競争で優位に立つのが、航空大手のANAホールディングス。ANAはなぜアバター事業に取り組むのか。
2 普段会えない人といつでも会えるようになる
3 身体的な限界がなくなり、高度な技術を共有できる
好きなとき、好きな場所に“瞬間移動”できる。「どこでもドア」のように、物理的距離を自在に超えられる世界が訪れようとしている。キーワードは「アバター」。自らの分身(=アバター)となるロボットを遠隔操作することで、あたかもその場所にいるかのようなリアルな体験ができるテクノロジーだ。
2020年、折り畳み式のアバターロボットが列島を席巻する。その名は「newme(ニューミー)」。青、緑、黄、赤、ピンク。カラフルでスタイリッシュなボディーと、顔を映し出すモニターを備え、ゆっくりと自走する。
これが文字通り、「新しい私」だ。インターネットを介して、離れた場所にあるニューミーに入り込む。すると、モニターの向こう側の世界と瞬時につながり、もう一人の自分を意のままに動かせるのだ。“首”を上下に振ることも可能。水族館にあるニューミーに入れば、悠々と泳ぐ魚を好きなだけ眺められる。どれだけ動いても疲れることはない。アバターには身体的な限界がないからだ。実家にあるニューミーに入れば、いつでも両親と生活を共にできる。
世界の94%の人に移動手段を
このニューミーを開発したのは、ANAホールディングス。エアラインとロボティクス。関係ないようで、実は明確な狙いがある。ANAによると、飛行機で移動する人口は世界全体の僅か6%にすぎない。残り94%の人々に移動手段を提供する技術こそがアバターなのだ。ニューミーはその第1弾となる、コミュニケーション型のロボット。20年夏までに1000体稼働する予定だ。
19年12月には東京・日本橋の商業施設「コレド室町3」に期間限定でニューミーを設置。「世界初のアバター専用店舗」として“瞬間移動ショッピング”を体感できるようにした。今後も商業施設や街なかなど人が多く集う場所に置き、社会インフラにしていく。プロジェクト名は「avatar-in(アバターイン)」。アバターの性能は徐々に人間に近づいていく見通しだ。ハンド型や二足歩行型、ウエアラブル型に釣りざお型。ANAは18年3月から賞金総額1000万ドル(約11億円)に上る国際的な賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」を主催し、世界的な企業と手を組んで着々と開発を進めている。
25年には介護士と同じ業務ができるアバターが登場し、30年にはレスキュー隊のように災害救助の現場で活躍する。40年には脳からの指示で動くようになり、50年には人間の五感と完全に同期し、アバターと自らの体験が同一視できるほど一体化する。そんなロードマップを描いている。 ANA以外にもプレーヤーは増え始めている。19年11月に米国から上陸したのは、音声で動かせるロボット「temi(テミ)」。エイチ・アイ・エスグループのhapi-robo st(ハピロボ、東京・世田谷)が国内総代理店となり、渋谷PARCOが早速導入した。ロシアの国産ロボット、通称「ヒョードル」は8月、国際宇宙ステーションへ到達した。誰もが“分身”を操り、国境どころか、大気圏すら軽々と越える。そんな時代が間近に迫っている。このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
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