※日経トレンディ 2020年1月号の記事を再構成
厳選したキーワードから、近未来の日本に起きることを予測する特集の2回目は「マイクロモビリティー」。欧米を中心に爆発的に普及している電動キックボードの波がついに日本に押し寄せた。法規制の壁を越え、シェアリングの大本命として「ラストワンマイル」を埋めるか。
2 高齢者でも乗りやすいため、買い物難民を減らせる定番デバイスになる?
3 交通渋滞の解消や排ガス量の削減に役立つ
2019年11月、“人類史上最速の男”が東京に降り立った。陸上男子100メートル、200メートルの世界記録保持者ウサイン・ボルト氏である。自らの名を冠し、米国とフランスで展開する電動キックボードサービス「BOLT Mobility(ボルト・モビリティー)」を日本で始めると高らかに宣言したのだ。
ボードに片足を乗せ、もう片方の足で地面を蹴って飛び乗る。あとはアクセルレバーを下げるだけで加速する。最高時速は20キロメートル程度。自転車のようにこぐ必要はなく、場所も取らない。それが電動キックボードである。1回1ドル、1分につき15セント程度が加算されるシェアリングサービスとして、欧米を中心に「ラストワンマイル」を埋める移動手段として急速に市民権を得た。そのマイクロモビリティーの波が、いよいよ日本にも押し寄せたのだ。
ボルト氏来日の数カ月前、福岡市でニアミスが起きた。電動キックボードの2大勢力が米国から相次いで上陸したのだ。Bird(バード)とLime(ライム)である。共に世界100都市以上に進出するトップランナーだ。
Birdは住友商事、LimeはKDDIやデジタルガレージと組み、まずはBirdが、翌週にはLimeがそれぞれ2日間、同じ会場で試乗会を開いた。ドイツ発のWINDは日本法人を設立し、10月には損害保険ジャパン日本興亜との提携を発表。さいたま市の浦和美園駅では既に貸し出しを始めている。日本勢もLUUPが横浜国立大学常盤台キャンパス、mobbyは九州大学伊都キャンパスで実証実験に乗り出した。
試乗会や実証実験という言葉が飛び交うのは、日本特有の事情からだ。電動キックボードは法令上、原付き(原動機付き自転車)に分類され、そのままでは公道を走れない。原付きの保安基準を満たすため、サイドミラーやウインカー、ナンバープレートの装着は必須。原付き免許を取得し、自賠責保険に加入して、走行時にはヘルメットをかぶらなければならない。セグウェイが実証実験の域を出ないのも同じ理由からだ。
しかし、電動キックボードには分厚い壁を突破する勢いがある。19年5月、日本の事業者が団結してマイクロモビリティ推進協議会を設立し、11月にはLimeが加入。独自の安全ガイドラインを策定するなど、一枚岩となって規制緩和の働き掛けを強めている。
電動キックボードの世界市場は25年、4兆~5兆円規模に膨らむとの試算もある。Limeは10月、韓国ソウルでサービスを開始した。日本でも自民党内にプロジェクトチームが発足。官民の足並みがそろえば、20年は性急だとしても、21年には電動キックボードが日本の街のあちこちで風を切って行き交っているかもしれない。
●公共交通よりも安い
●飛び乗るだけで使いやすい
●こがないので疲れにくい
●自転車よりもコンパクト
↓
ラストワンマイルの移動に最適
課 題
●道路交通法の壁がある
➡日本では原付きに分類
●サイドミラー ●ウインカー ●ナンバープレート ●ヘルメット ●原付き免許
は必須
↓
原則私有地しか走れない
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