ブランド論の第一人者であり、ブランド・ジャパン企画委員会委員長である一橋大学大学院教授の阿久津聡氏は「コロナ禍の社会状況だからこそ、ブランディングもマーケティングも『カスタマー・スイートスポット』が大切になる」という。その事例として、ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町、以下、ヤッホー)の取り組みを紹介する。
人気のクラフトビール「よなよなエール」を生産するヤッホーは2020年5月、ファンが集う恒例イベント「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」をオンラインでの開催に切り替えた。YouTube Liveを使って配信、誰でも自由に参加してビールの家飲みを楽しめる。この試みは5月と6月に実施され、最高同時視聴者数はそれぞれ約1000人、延べ視聴者数は計1万人を超える巨大イベントになった。
ヤッホーの井手直行社長はこう語る。
「リアルイベントにはかなわないだろうなと最初は思っていたんですよ。やらないよりはいいだろうくらいの気持ちでした。でも始まって私が登壇すると、チャット機能で『てんちょ、ひさしぶり!』とか、スタッフと挨拶を交わしたり、ファン同士も声を掛け合ったりしていました。盛り上がりすぎて、チャットが追い付かないほど書き込みが続く。オンラインでも人の感情が伝わるんだと思いました。エンディングでスタッフが作ってくれた動画が流れると思わず涙が出ましてね、スタッフとファンの方々に感謝しかありません」
同社では社員同士がニックネームで呼び合う文化があり、井手氏のニックネームが「てんちょ」だ。ファンからもてんちょと呼ばれるところにヤッホーとファンの距離の近さが読み取れる。阿久津氏は同社を評してこう語る。
「ヤッホーはビールを飲む楽しさを企業理念として大事にしています。ビールを通じたコミュニケーションの大切さを積極的に提唱し、売り上げも順調に伸びている。もともとファンイベントの多い会社ですが、今回オンラインでもビールの楽しみ方があることを証明してくれました。コロナ禍による社会の変化にうまく対応した事例といえるのではないでしょうか」
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー