我が国のブランド論の第一人者で、ブランド・ジャパン企画委員会委員長である一橋大学大学院教授の阿久津聡氏は「企業理念に基づいた事業活動自体が社会的貢献度の高いものであることが理想的」と語る。今回は、企業理念に基づいた事業活動を徹底して展開しているエーザイの事例を通じ、オーセンティックなブランディングのあり方を紹介する。

 前回の記事で、阿久津氏は「withコロナ時代において、企業の理念に基づいたオーセンティック(本物)な実践がブランディングの成功につながる」と語った。そのためにも、企業理念に基づいた事業活動自体が社会的貢献度の高いものであることが理想的な状態だという。社会貢献度の高い事業活動を推奨する意味では、CSV(共有価値の創造)の概念にも通じるものだ。今回は、企業理念に基づいた事業活動を徹底して展開しているエーザイの事例を通し、オーセンティックなブランディングのあり方を紹介する。

社会貢献は自社事業に根差していないと続かない

 コロナ禍において、企業の社会貢献のあり方が問われている。多くの企業は困難に陥ったコミュニティーや人々のために何かをしたいと考え、中には本業と全く関係がないのにマスクを作り始めた企業もあるという。阿久津氏はそうした行動は尊いとしながらも、企業理念に基づく事業活動に根差したものでないと、意義や持続性という点で課題が残る可能性があると語る。

 「もしある会社が社会の困りごとを解消するために採算を考えず無理をしてマスクを生産したとしても、会社の掲げる企業理念とそれに基づいた企業活動に結びついていなければ、長続きするとは考えづらい。期待させておいて途中で断念することになれば、結果的に関係者に迷惑をかけてしまうことにもなりかねない。外部の誰かから言われたから行うのではなく、自らの理念に基づいて自社がやるべきことを考えて実践すれば、社員の間でも活動の意義が実感され、事業に根差したものだからこそ持続性を持つことになる。その意味でCSVのように企業の持つ強みを生かし、ビジネスとして社会問題を解決する視点は重要」と阿久津氏。

 CSVはハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が2011年に提唱した概念で、企業が自らの経営資源や専門性などを生かした活動を通して社会ニーズに対応し、経済的および社会的価値を創造するという考え方だ。似たような概念にCSR(企業の社会的責任)があるが、一般的なCSRの概念は社会や環境に対する企業の責任を果たすことを指し、受動的対応とされる。これに対してCSVは積極的・戦略的対応で、CSRとは似て非なるものとポーター教授は述べている。

 最近、話題に上ることの多くなったSDGs(持続可能な開発目標)は15年の国連サミットで採択された17の目標だが、その取り組みも企業活動と遊離しては意味がない。「SDGsを起点にしてその中の何をするかを選ぶというアプローチより、自社の企業理念を起点にしてそれを実践するためにSDGsがどう役立つのかを考え、必要なものから取り組んでいくというアプローチのほうが、主体的に考え、事業に結びついた形で実践できるという点で有効だと考えています。国連や政府から要請されるから仕方なく、もしくはとりあえずやるという流れになってしまうと、主体性に欠け、途中で頓挫してしまうリスクが高まります」と阿久津氏は警告する。

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