ブランド・ジャパンの調査結果からブランド構築における成功の鍵を探る本連載。第2回は、ブランド総合力で過去10年間ほぼ毎回順位を上げ続けているアイリスオーヤマを取り上げる。調査結果では革新性や独自性の評価が高かった。強さの源泉はどこにあるのか。その秘密を解き明かす。

アイリスオーヤマの炊飯器。炊飯釜とIH調理器を分離できる
アイリスオーヤマの炊飯器。炊飯釜とIH調理器を分離できる

 収納ボックスや園芸用品のイメージが強いアイリスオーヤマ(以下、アイリス)がいつの間にか大きな変貌を遂げていた。今や売り上げの6割近くを家電が占める。同社の家電販売をけん引するのが「なるほど家電」シリーズだ。大手家電メーカーが行き詰まりを見せる中、2003年以降、17年連続増収を達成するアイリスはなぜ快走を続けているのか。

 同社の広報室の中嶋宏昭室長はこう語る。「異業種から家電に参入したため、業界の常識を知らなかったのが良かった。常識に縛られず、消費者の目線で開発していることが支持されている理由ではないか」

 ブランド・ジャパンの調査を見ると、消費者のアイリスに対する評価は上がり続けていることが分かる。10年のブランド総合力では1000ブランド中477位だったが、19年は210位と大きく向上している。一時的に下がった年もあるが、過去10年間ほぼ毎回順位を上げ続けている。これほど長期にわたって成長を続けるブランドはそれほど多くない。

 項目別に見ると「勢いがある」が397位(10年)から50位(19年)、「いま注目されている(旬である)」が273位から62位と大きく上げた。

アイリスオーヤマのブランドランキング(2010、19年)/ブランド・ジャパン(一般生活者編)より
アイリスオーヤマのブランドランキング(2010、19年)/ブランド・ジャパン(一般生活者編)より

 ブランド・ジャパンでは4種類の因子を評価している。「フレンドリー」因子は親しみ、「コンビニエント」因子は品質感・便利さ、「アウトスタンディング」因子は卓越さ・独自性、「イノベーティブ」因子は革新性を示している。これらの因子は偏差値化されており、平均が50ptになる。アイリスの各因子の詳細を見ると、アウトスタンディングでは、「他にない魅力がある」が447位から97位、フレンドリーでは「共感する、フィーリングが合う」が332位から153位となった。同社が次々に新たなカテゴリーや業界常識を打ち破る商品を送り出し、生活者に支持されてきた結果である。

東日本大震災を機に会社が変わった

 アイリスのブランドが長期にわたり注目され続けているのはなぜか。年度を追っていくと、ブランド総合力が13年度から急に伸び始めていた。その頃、何があったのか。

 「11年の東日本大震災の影響が大きい。宮城県の本社工場が被災し、現地に全国からボランティアが集まった光景を見て、経営トップの考え方が変わった」(中嶋室長)

 これを期に、経営方針を生活における不満や課題を解決する「ホーム・ソリューション」から、日本の課題を解決する「ジャパン・ソリューション」にシフトした。さらに新商品・新事業の開発方法も変えたことで、グループ全体の売り上げ大きく伸びたという。実際、同社のグループ総売上高は11年度では2400億円弱だったが、19年度は5000億円と倍増した。

 主力商品の1つ、LED照明は09年から販売していたが、震災後の計画停電があり、日本全体での省エネが必要になると大増産に踏み切った。その後、需要が急増し、同社のシェアが高まった。

 12年末には大手家電メーカーが大規模な人員削減を行った。同社は、これをチャンスに変えた。メーカー出身の技術者たちを積極的に採用し、大阪に新たな製造・開発拠点を設けた。技術者たちのキャリアを生かし、家電事業に本格参入。数々のヒット商品を生み出す原動力となった。

「なるほど家電」でヒット連発

 同社の「なるほど家電」シリーズは、生活者目線で使いやすさを高めた商品で、価格も比較的安価に設定している。それが支持され、単体売り上げのほぼ6割を家電が占めるまでに成長した。

乾燥機能を搭載しない分、価格を抑えたドラム式洗濯機
乾燥機能を搭載しない分、価格を抑えたドラム式洗濯機

 アイリスの商品開発では、使用頻度の低い機能を外し、その分販売価格を下げるという姿勢が顕著だ。こうしたアイリスの開発方針を消費者が支持している。例えば、19年10月に発売したドラム式洗濯機。あえて乾燥機能を外し、10万円を切る販売価格を実現し、ヒットしている。事前の調査により、乾燥機能を使っているユーザーが少ないことを把握して開発した。自動清掃機能を入れず、販売価格が7万円を切るエアコンも売れている。

 一方、ハンディークリーナーにモップを付けたり、IH調理器と炊飯釜を分離できるIHジャー炊飯器、さらには摂取カロリーや最適な水の量を教える炊飯器など独自の機能を備えた商品も人気だ。

 13年にはもう1つの新事業として、米の販売に参入した。「震災で大きな被害を受けた農家を支援するために、農家から米を全量買い取って販売している。そのため大規模な精米工場を建設した。販売数は計画よりも好調に推移している」と中嶋室長。

 米販売でもアイリスらしさが生かされている。低温管理した米を生鮮米として打ち出し、キロ単位が当たり前だった販売法を合単位で小袋化し、しかも高気密パックで包装して脱酸素剤を封入し、酸化を防いでいる。そのため、アイリスの米はおいしいという消費者が多い。

アイリスオーヤマは、13年に米の販売を始めた。そのため宮城県亘理に精米工場を建設した
アイリスオーヤマは、13年に米の販売を始めた。そのため宮城県亘理に精米工場を建設した