「たくさんのドーナツで満たされることを願っています」。バブソン大学の卒業式で、トヨタ自動車の豊田章男社長が母校の後輩に贈ったスピーチは国内でも話題を集めた。起業家教育(アントレプレナーシップ)に特化したバブソン大学の教育の方法論は、5つに分解できる。その方法論を同大学で准教授を務める山川恭弘と、同大学の卒業生であり、数々のイノベーション・プログラムを手がける小村隆祐が解説する。

 「I hope your era is one filled with beautiful harmony, much success and many many DONUTS!(皆さんの時代が美しいハーモニー、多くの成功、そしてたくさんのドーナツで満たされることを願っています)」

 普段はスポーツのために使われる芝生に建てられた真っ白な特設テントの中、1人の日本人が自身の母校の卒業生に贈ったスピーチの締めくくりの言葉だ。スピーチが終わると、大勢の学生たちは一斉に立ち上がり拍手喝采となった。その拍手は鳴り止むことがないようにも思えた。

 ネット上の動画でご覧になられた方も多いかもしれない。トヨタ自動車の豊田章男社長が、起業家教育に特化したバブソン大学の卒業式で行ったスピーチだ。このスピーチはトヨタ自動車の公式「YouTube」チャンネルで公開され、SNSで瞬く間に広まった。多くの人の心を動かし、今なおオンライン上でシェアされ続けている。

 スピーチには印象的なフレーズや言葉が多く含まれている。その1つが、「ドーナツ」という言葉だ。豊田氏の言うドーナツは「心から本当にやりたいこと(を見つけなさい)」を指し示している。

 本連載では、バブソン大学が教える起業家的な考え方や、行動法則を数回にわたって紹介する。また、バブソン大学のプログラムでは、すべての学生が学生同士で実際に起業しなければならない。そして、失敗を重ねながら学習して、起業家として成長していくことになる。本連載では、実際に教える立場から、そうした学生が取り組む起業と失敗の様子をお伝えしていく。バブソン流の考え方や行動原則、学生たちの失敗からの学びは、起業や新規事業創出にとどまらず、仕事や趣味にも活用可能だ。新規事業や起業に取り組む人はもちろん、あらゆる人の行動を変えるうえで役立つ。まずは、バブソン大学の特徴について紹介しよう。

豊田章男 米国バブソン大学卒業式スピーチ 「さあ、自分だけのドーナツを見つけよう」

 本題に入る前に、本連載の2人の執筆者について紹介したい。まず、バブソン大学の准教授の山川恭弘だ。山川は海外複数国での在住経験、起業・企業内起業を経て、バブソン大学で教壇に立つ。ここ10年で「Failure is Good(失敗学)」など、起業に関する授業を3つ創設した。自らも経営者や、投資家として起業・経営に関する理論と実践を網羅するアカデミック・アントレプレナーだ。携わる分野は教育、コンサルティング、エネルギー、スポーツ関連など幅広い。日本では、世界最大級のスタートアップ集積地であるケンブリッジイノベーションセンター(CIC)、並びに姉妹組織として世界11都市で展開するイノベーション促進プログラム「Venture Café Tokyo」の代表を務める。

 もう1人はバブソン大学MBA卒業生の小村隆祐だ。小村はバブソン大学を卒業後、国内経営大学院の人材育成や組織開発コンサルティング部門に参画し、起業分野の研究開発部門にも所属した。山川とはバブソン大学時代から様々なプロジェクトを手掛け、現在もVenture Café Tokyoでプログラム・ディレクターとして共に働いている。

起業家教育で存在感を放つバブソン大学

 さて本題だ。まずはバブソン大学がどのような大学なのか、その概観をまずは伝えたい。バブソン大学は米マサチューセッツ州のボストンから車で30分ほど離れた、自然豊かな場所にある起業家教育に特化した大学だ。米国の時事解説誌「USニューズ&ワールド・レポート」が発表する大学格付けランキングにおいて、23年連続でアントレプレナーシップ部門で1番の評価を得ており、第三者からも認められている。

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