最終回は、前回に続きゲーム産業におけるブロックチェーンの利活用についてみていきたいと思います。少し極論になることを承知のうえで、従来のゲームとブロックチェーンを活用したゲームの根本的な違いを明確にしたいと思います。最後に、これまでの記事を改めて振り返り、本連載を総括いたします。
一般にオンラインゲームの運営では、サーバーなどの設備だけでなく、「新しいクエスト」「新しいアセット」などの新しいコンテンツを投入し続けるためのコンテンツ制作チームが必要です。これはゲームの運営を続ける限り、維持しなければなりません。しかしブロックチェーン・ゲームでは、その仕組みを“逆転”させることができます。
ブロックチェーンがユーザーを主役にする
というのも、ユーザーが自らコンテンツを増やして管理も自分でして、やり取りもユーザー同士で行うからです。ゲーム会社にとって、設備関連費用だけでなく、運営チームも最小限で済むメリットが生まれます。従来のゲームが「運営元=生産元=提供元」というモデルだとすれば、ブロックチェーン・ゲームにすることで「運営元=開発会社」と「⽣産元=提供元=ユーザー」という新しいモデルへ移行できます。
現実世界がそうであるように、ゲームの世界住むプレーヤーによってみんなで世界を豊かにしていく――――。未来のブロックチェーン・ゲームの魅力はそこにあります。
もしかしたら、ユーザーの中からプロ化した人気アイテムデザイナーが誕生するかもしれません。日本の同人誌文化で育まれたのとよく似た現象が起こると考えられます。提供元のゲーム会社とのアイテムデザイナーの共存も難しくないに違いありません。クオリティーのコントロールをゲーム会社はできませんが、資本主義の原理で出来栄え良くて適切な値段のアイテムだけがより広く流通するでしょうから、ゲームの品質が落ちる心配はないと思われます。
ブロックチェーンは、サーバーやクラウドのように何らか資源が求められるタイプの技術ではありません。各ユーザーのコンピューター同士をつなぐ技術ですので、ソフトウエアさえあればネットワークを築ける利点があります。また「サーバーが止まったらサービスが全停止」といったリスクもありません。言ってみれば、手軽に“しぶとい”丈夫なネットワークをつくりやすいので、小さなコミュニティーをつくるのに向いていると言えます。
例えば小学校。生徒たちが、学校の思い出をデジタルコンテンツにしてブロックチェーンで記録しておけば、友達同士で交換したり、いつ誰と何を交換したりしたのかの記憶も半永久的に残して大人になってから振り返るようなことができるかもしれません。
作家が出版社を頼らずに、仮想空間でファンとつながって生計を立てるようなことも実現可能です。デジタルコンテンツの長所であり短所は、データがすぐにコピーできてしまうこと。現在多くのコンテンツ企業は、暗号化したコンテンツを専用サーバーに格納し、コピーされて流出しないように厳格なセキュリティー管理を余儀なくされています。映画タイトルのように、レンタルして鑑賞可能な期限を設定するなどの手間もかかっています。
ブロックチェーンを使えば、大掛かりな仕掛けを用意することなく、自分の作品を不正にコピーされることなく受け手に一人ずつ正確に渡せるようになります。「自分とつながっているノード=世界」ですから、作家は自身のノードから世界へ向けて発信でき、よい作品なら一気にコネクションを増やすことも難しくないでしょう。
ブロックチェーンは応用先としてネット空間ばかりを想像してしまいがちですが、実は現実空間での応用も可能です。
ブロックチェーンは、小さなコミュニティーのつながりをその場で生成するのに適していますので、例えば遊園地への導入も可能です。入場ゲートや各店舗にノードを割り当て、お昼時間限定でそれぞれのお店から割引クーポンをブロックチェーン上に配布できます。本物のクーポンだけを持つ来園客に割引を提供できますし、入場者がブロックチェーン経由でクーポンを友人に融通すれば、さらなる集客増にもつながりそうです。
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