eスポーツとAI(人工知能)の関係について歴史を振り返りながら整理した前回に続いて、今回はeスポーツの世界でAIが果たす役割や今後の可能性について考察したいと思います。人間とAIの関係性はどう変わっていくのでしょうか。
eスポーツには大きく4つの流れがあります。(1)「日本におけるゲームセンターでの対戦文化の流れ(1980年代~)」、(2)「米国・北欧を中心とするFPS(ファースト・パーソン・シューティング)ゲームの対戦の流れ(2000年前後~)」、(3)「韓国におけるeスポーツ文化の流れ(97年~)」、(4)「世界的なMOBA(マルチプレーヤー・オンライン・バトル・アリーナ)スタイルのチーム対戦ゲームの流れ(10年~)」――です。
これら4つ全てに共通するのは、あくまでもプレーヤー自身の能力を競い合う点です。ゲームはその空間の中で人の能力をエンハンス(拡張)し、アイテムやレベルアップ、キャラクターのカスタマイズによって能力がゲーム内で進化していきます。
ただプレーヤーの能力がいかにエンハンスされようとも、オリジナルである人間の能力が反映されます。だからこそ強調された能力の表現や卓越したスキル、知能に観客は酔いしれるわけです。こうしてプレーヤーたちに対して、将棋やチェスのように、対戦成績によって厳密にスコアリングされ順位がつけられます。
AIと対戦する人間たち
さてゲームの世界では、人間に対等な戦いを挑むAI(人工知能)が現れています。デジタルゲーム空間は、人間とAIが対等な戦いをできる場。現実空間に近づければ近づくほど、人間とAIにはっきりとした差が表れるためです。
人間は自らの身体を使ってゲームに参加していますが、当然ながらAIには現実に適応するための身体がありません。自分で考えて動き回る自律移動型ロボットを使った「ロボカップサッカー」という競技がありますが、人間とロボットがサッカーで試合できるのは2050年とされています。それだけ人間並みの身体をAIがまとうには時間がかかります。完成したからといって、生身の人間同様というわけにもいかないでしょう。
しかしデジタルゲームの空間内であれば、人の側が現実の身体ではなくゲーム内キャラクターの身体を使って活動できます。AIの側も、人間と同じ身体構造を持つキャラクターとして戦うことが可能です。
人間とAIがゲームで戦うことは、もはや珍しいことではありません。筆者の仕事は、敵キャラクターの“頭脳”を作ることがメインなのですが、それは時代劇の「切られ役」や遊園地のアトラクションを作るのに似ています。要は、プレーヤーをいかに楽しませられるかが重要です。
しかしeスポーツはそうではありません。AIは人間と対等な立場で、全力で相手のプレーヤーを倒すために開発されます。
最近AIとエキシビションマッチを行うeスポーツが増えているのですが、そこには「人間対AI」という図式があります。観客は人間の代表であるプレーヤーたちのプレーを通じて、相手のAIの性能を推し量ろうとします。逆にAIのプレーから、人間の性能を測ることも欲しています。
ゲームが様々な能力を人間から引き出せるようになったおかげで、卓越した能力を持つプロのeスポーツプレーヤーが続々誕生しました。そして人々は、彼らがどこまでAIに太刀打ちできるか知ることを望んでいます。
今後eスポーツは、人間とAIが平等に戦う場所として常に更新され、人々は「人間対AI」の図式がどう変わるのかを推し量る時代の指標としてeスポーツに注目し続けるでしょう。
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