これまで人類は、都市を作り上げてきました。人間ではコントロールできない自然に壁を巡らせて、人間だけの世界を内へ内へと築いてきました。都市は進化し、中世・近代・現在を経て、さらに未来へ発展しようとしています。

AIがつかさどる未来の都市、スマートシティ。そこでは、多層的な構造のAI群が意思決定する(写真/Shutterstock)
AIがつかさどる未来の都市、スマートシティ。そこでは、多層的な構造のAI群が意思決定する(写真/Shutterstock)

 都市が進む次の段階は、都市とAI(人工知能)が融合するスマートシティです。一言でいえば「都市のAI化」です。都市自体が1つのAIとして働き、隅々にまで情報収集のためのIoT(インターネット・オブ・シングズ)機器、センサー、監視カメラを張り巡らせてその情報からリアルタイムに都市の現状を認識します。それを基にスマートシティを代表する中枢知能である「メタAI」が意思決定を行います。

 ドローンやロボット、人間を使役することによって街の現状維持や人間の安全、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)を守ります。今回は、このスマートシティの詳細に踏み込んで行きましょう。

サブサンプション構造
サブサンプション構造
知能を階層的かつ自律的に作るための包含構造

メタAIが意思決定するスマートシティ

 AIを作る原理の1つに、「サブサンプション構造」があります。1987年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)のロドニー・ブルックス氏によって提案されました。この構造は、「セントラルドグマ」がすべての情報を1つの場所に集約して意思決定するシステムなのに対して、複数の意思決定を並列に動かして階層化するという柔軟性を持つ意思決定システムです。大きな賛否を引き起こしながら、次第に広まって行きました。

 サブサンプション構造の最下層は「反射レイヤー」です。例えば身体に対する刺激は運動に直接結びつき、いろいろな反射動作ができるようになります。しかし、反射動作だけでは環境で生き延びられません。反射的動作を時には止めて、より高度な選択をする必要があります。とはいえ、飛んで来た枝を避けて崖から落ちるわけにはいきません。反射レイヤーを常に監視して、ある場合には反射レイヤーを止めて乗っ取るレイヤーが必要です。これが第2レイヤーです。

 このように第3、第4のレイヤーも考えていきます。レイヤーが増えるということは、より抽象的な思考を持ち得るということです。サブサンプション構造は、ロボティクスの基本アーキテクチャーです。

都市におけるサブサンプション構造
都市におけるサブサンプション構造
都市を階層に分けて独立した人工知能が制御し、かつ協調する

 スマートシティでも同様に、サブサンプション構造と階層構造が有効です。都市全体を1つの集約的AIで管理できないからです。一体となったAIがサブサンプション構造で多層的な構造を持つように、スマートシティもまた、多層的な構造で設計されます。それぞれの地区や場所に対してAIを割り当て、階層的に知能構造を積み上げて行き、最終的に最上層の知能までたどり着くようにします。このような階層性を持つことで、局所的な状況に迅速に対応すると同時に、全体としてゆっくりとした制御を都市に対して実行できます。

ミラーワールドが可能にする「プレイアブルシティ」

 第1回で解説したように、スマートシティはその内側に必然的にミラーワールドを内包します。ミラーワールドとは、現実そっくりのデジタルワールドが現実と共存するような世界を指します。現実そっくりのデジタルワールドはデジタルツインとも呼ばれ、現実の物理的空間をそっくりコピーした世界となります。

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