これまで神奈川県内しか走っていなかった相模鉄道(相鉄)が、2019年11月30日、東京都心への乗り入れを開始した。しかし実は、鉄道よりも先に都心に進出していたのがビジネスホテル「相鉄フレッサイン」。しかもホテル事業の規模は業界屈指に成長した。その真の狙いは、相鉄ブランドの認知度アップにある。
新橋、六本木、神田、臨海副都心……ここ数年、都内で相鉄の文字を見かける機会が増えている。相鉄ホールディングス傘下の相鉄ホテルマネジメント(横浜市)が運営する宿泊特化型ホテル「相鉄フレッサイン」「相鉄グランドフレッサ」だ。
東急、西武、阪急などが古くからシティーホテルを全国展開する大手私鉄は少なくないが、相鉄のホテル事業は1998年に横浜駅西口の旧本社跡地に開業した「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」1施設にとどまっていた。転機となったのは2007年。神奈川県鎌倉市のJR大船駅前にある社有地の有効活用案として宿泊特化型ホテルが浮上した。当時、付帯設備が少なく初期投資額が抑えられるビジネスモデルとして、JR西日本、西日本鉄道、京王電鉄など鉄道各社が宿泊特化型ホテルにこぞって参入。相鉄もその流れに加わり、相鉄フレッサインを立ち上げた。
10年に開業した3号店までは地元の神奈川県内での展開だったが、11年11月から12月にかけて、浜松町、京橋、赤坂と都内に立て続けにオープン。翌12年には、東京電力グループが運営するビジネスホテル2店舗を買収するなど、首都圏を中心に勢力を拡大し始めた。相鉄は神奈川県内ではよく知られたブランドだが、県外では認知度が低い。「そうてつ」と正しく読んでもらえなかったり、鉄道会社ではなく製鉄会社と思われたりと、知名度不足に悩まされることが多かったという。
それでもあえて都心に打って出たのには、2つの狙いがある。1つは沿線外で稼げる事業の柱を創出すること。それまで相鉄が展開してきた事業は、鉄道・バスなどの運輸業、スーパーなどの流通業、そして宅地開発などの不動産業。いずれも相鉄沿線が中心だが、路線の長さは35.9キロメートルと大手私鉄の中では最短で、成長には限界が見えていた。
これが表の狙いだとすれば、裏の狙いが相鉄ブランドのアピールだ。相鉄・JR直通線が着工されたのは10年3月のこと。都心乗り入れが現実となる中、沿線外でも相鉄の知名度を上げ、沿線住民を増やそうという機運が高まった。そこで、都心乗り入れに先立つ先兵として、都内各所に相鉄フレッサインを展開していくことを決定。出店ペースは加速し、先行していた他の鉄道会社系ビジネスホテルを追い抜いていった。ホテル事業を担当する相鉄ホールディングス経営戦略室の横倉大志課長は「グループとしての方向性が明確で、他社よりも意思決定が早かった」と違いを話す。
それが如実に現れたのが、14年のサンルート買収だ。サンルートは1970年代にチェーン展開を始めた老舗ビジネスホテルで、14年当時の店舗数(フランチャイズ含む)は全国に66施設と、当時14施設しかなかった相鉄フレッサインよりもはるかに大きな規模。ホテル事業に関して言えば、小が大をのむ買収となった。「サンルートの運営ノウハウを獲得できたことは大きなプラスだった」と横倉氏は振り返る。
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