遅れていた営業現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進みつつある。「セールステック」と呼ばれる、デジタル技術を活用した支援サービス市場の隆盛がその理由。サービスの細分化が進み、企業にとって自社の営業課題に合わせて取捨選択の幅が広がっている。本特集では営業プロセスに合わせて各社のサービスをマッピングした「セールステック・カオスマップ」と共に、進化するセールステック市場を解説する。

遅れていた営業のデジタルトランスフォーメーションが急速に進み始めた(写真/Shutterstock)
遅れていた営業のデジタルトランスフォーメーションが急速に進み始めた(写真/Shutterstock)

 2018年夏、とあるサービスがリリースされた。その名も「Select DMP」。広告サービスのイメージが強いDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を名に冠しているが、その実態は営業効率を上げるための営業支援サービスだ。提供するのはインティメート・マージャー。ネット広告業界ではパブリックDMP事業者の大手としてよく知られた存在である。その同社がなぜ、営業支援に参入したのか。その理由を取締役の佐伯朋嗣氏はこう説明する。

 「ネット広告は最適化が進み過ぎて、データを活用したとしても改善幅が少ない。一方、デジタル化が遅れる営業の世界は、データの活用によって大きな改善幅が見込めるため成長の余地が大きいと判断した」

 インティメート・マージャーは、自社で収集した4億7000万を超えるブラウザーにひも付くデータをDMPに蓄積。広告配信を最適化するためのデータサービスとして提供してきた。データサプライヤーである同社は、データ活用によるマーケティングの改善貢献度がすなわち収益になる。しかし、ネット広告領域は日本でも大手プラットフォーマーによる寡占が進み、データの価値を打ち出しづらくなりつつある。こうした中、新しいデータの活用先として、デジタル化が遅れる営業領域に目をつけた。

 デジタル技術を活用した営業支援サービスは、営業(セールス)と技術(テクノロジー)を掛け合わせた造語「セールステック」と呼ばれ、急速に市場が拡大しつつある。IT専門の調査会社IDC ジャパン(東京・千代田)は、18年のCRM(顧客関係管理)アプリケーション市場は前年比7.2%増の1572億1400万円だったと発表。23年には約2079億円に拡大すると予測する。CRMはセールステックの一部にすぎないため、市場全体はさらに拡大を続けそうだ。

セールステックの需要が高まっている理由

 その背景について、まず少子高齢化という日本特有のトレンドがある。厚生労働省は、日本の生産年齢人口が2040年には現在から20%減り、5245万人になると予測する。企業にとって人材の確保はさらに難しくなり、営業担当者1人当たりの生産性効率を上げなければ利益を上げづらくなる。一方、現場から見れば、対象企業に対してしらみつぶしに電話や飛び込みで営業する「どぶ板営業」は極めて非効率。そこで、これまで遅れていた営業のデジタル化に着手し始める企業が増えてきたというわけだ。

 2つの理由により、導入のハードルも大きく下がった。1つ目が多様な選択肢が生まれたこと。営業支援ツールと聞いて思い浮かべる企業の代表格は、おそらく米セールスフォース・ドットコムだろう。創業から20年で年商132億8200万ドル(約1兆4900億円)に達するほどの急成長を遂げた。

 ところが、同社の高度なSFA(営業支援システム)は、使いこなせる人材が不足している。あるツールベンダーの社長は「製品・サービスの推奨度を測るNPS(ネット・プロモーター・スコア)で、セールスフォースと自社のツールを比較したところ、前者は決裁権者のNPSは高い一方、実際に使う現場では低い結果が出た」と明かす。そのような、デジタルにうとい企業でも目的や営業課題に合わせて必要な機能だけを取り入れられるように、特定領域に特化したツールが増えている。

 もう1つの理由は、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)市場の浸透だ。「業務課題に合ったサービスを選択でき、オンプレミス(自社内への設置)でシステムを開発するよりコストが安い。また、うまくいかなければ契約を止めるだけでいい。セキュリティー面での信頼性も高まり、(クラウド型である)SaaS導入の寛容度が上がっている」。SaaS事業者向けにCRM支援サービスを提供するHiCustomer(東京・品川)の鈴木大貴社長は、市場の変化をこう説明する。

 SaaSへの投資も進む。オプトベンチャーズ(東京・千代田)代表取締役を務める野内敦氏は「人口が増えないという日本の課題解決に着目して、事業を開発するベンチャーが今後成長すると考えている。さまざまなビジネスのSaaSが立ち上がっているのは、人が増えない日本独特の現象だ」と言う。生産性を向上させるセールステックは、投資会社にとっても有望株になりそうだ。まさに、百花繚乱(りょうらん)ともいえるセールステック市場。そこで、日経クロストレンドはSFA開発のマツリカ(東京・品川)と共同で、セールステックのサービスやツールを5つの営業プロセスに合わせて整理した「セールステック・カオスマップ」を作成した。まずは、このカオスマップについて、解説しよう。

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