一休社長の榊淳氏が気鋭のデータサイエンティストを訪ね、「データサイエンスの未来」を語り合う対談企画。今回は30万円という高額ながら大ヒットしている家庭向けロボット「LOVOT」(らぼっと)の開発・販売を手がけるGROOVE X(東京・中央)の林要社長を訪ね、LOVOTが持つ生き物感の正体について議論した。
榊淳氏(以下、榊氏) まずは学生時代のことを含めて、林さんのこれまでの経歴を教えてもらえますか。
林要氏(以下、林氏) 大学では数値流体力学を専攻していました。代表的なユースケースは天気予報で、地球全体の空気の流れから天気を予測するものです。私は天気予報はやっておりませんが、やはり大量の格子点を切って、疑似的な環境を作るシミュレーションをやっていました。
榊氏 偏微分方程式ですね。僕の周りにも流体力学を専攻する人が大勢いたので分かります。その流れでトヨタに入社したのですか。
林氏 はい。トヨタに入社したのは車が好きだったからです。学生の時にシミュレーションでプログラミングをやってみたのですが、ソフトウエアエンジニアとしてはさほどセンスがないと分かりました。そこでトヨタでは実機を触りたいと思っていたのですが、専門がシミュレーションだったので、シミュレーションをする業務ということで「フォーミュラ1」(F1)を担当することになりました。
榊氏 トヨタでF1とはすごいですね。
林氏 ええ、チームはグローバルでメンバーが100人くらいいる中で、日本人は私一人でした。F1のエンジニアリングは特殊な仕事で、未経験者がチームメンバーになることはまれです。英語力に問題を抱える私がチームに加わったのは、空気の流れが分かり、物おじしない若くて元気な人間を必要としていたためでした。また私は、トヨタが初めて作ったスーパーカー「レクサスLFA」にかかわっていたので、その経歴も買われたのでしょう。
F1チームでの仕事はとても面白く、夢のような日々でした。そのまま骨を埋めるつもりでしたが、想定外だったのがレギュレーションとの戦いでした。ウイングの形状や底面から見た時、どこに部品を配置するかなどが決まっていて、ホワイトゾーンを突くだけでは勝てません。
フランス語で書かれた原典(ルールブック)を英語に翻訳したものを日本人が読み解き、グレーゾーンを突くのはハードルが高いんです。それがF1を面白くしているとは言え、もう少しテクノロジーを自然な領域で追求したいと考え、一般車の製品企画に転じました。
ところが、一般車の仕事はF1とは正反対で、制約の中で間違いのないものを作らな くてはならない。カルチャーショックを体験しました。それにも慣れた頃、新たな学びを求めてソフトバンクの企業内学校であるソフトバンクアカデミアに応募しました。「The Next Big Thing」は何かを考え、視野を広げたいと思ったのが、きっかけです。そしてアカデミアで新しいことを勉強する中、全く経験のないロボットプロジェクトの話をもらい、「Pepper」のプロジェクトに参加しました。
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