一休社長の榊淳氏が気鋭のデータサイエンティストを訪ね、「データサイエンスの未来」を語り合う対談企画。今回は自然言語処理に特化したAI(人工知能)スタートアップ、ストックマーク(東京・港)の林達社長と、AIのビジネス活用の可能性について議論する。
榊淳氏(以下、榊氏) 林さんは新卒で総合商社に入社したとのことですが、どのような経緯で、AIの会社を起業することになったのですか。
林達氏(以下、林氏) 私の両親は台湾出身で、代々商売人の家系です。起業するのは当たり前、といった環境で育ちました。
実際に大学に在学しているとき、今で言うインバウンド向けサービスを提供する旅行会社を立ち上げて、経営していました。そのきっかけは、うちでCTO(最高技術責任者)を務めている有馬(幸介氏)と一緒に東京大学、北京大学、ソウル大学の学生交流ネットワークを運営していたことです。この会社を売り上げが数千万円になるまで育てたのですが、やがて成長の壁にぶつかった。そこで改めて企業の中でビジネスを学ぼうと思い、1年遅れで就職活動をして、伊藤忠商事に入ったのです。
榊氏 総合商社を選んだのはなぜですか。
林氏 金融の知識と事業の知識とをバランス良く得られると思ったからです。コンサルティングにはあまり関心がありませんでしたし、普通の事業会社はできることが限られる。それでは自分の成長の伸び代が少なくなると思いました。
当時の総合商社は、支援先企業のビジネスを伸ばす事業投資に注力していて、理想的な環境に思えました。実際、入社すると事業投資をする部署に配属されました。在籍期間は4年ほどですが、経営に必要な経験を積むことができたと思います。
榊氏 商社に在籍しながら起業を考えていたのですね。
林氏 ええ。入社3年目から有馬と毎週のようにビジネスプランの相談をしていました。有馬の専門である自然言語処理(NLP)は、まだ市場が形すらない頃。そこで、AIに関係ないものも含めて、事業化アイデアを100個出しました。中にはタコス屋や中国茶カフェなど、今のビジネスに全く関係のないものもありました。その100個のアイデアに点数を付けて、何をやるかを決めたのです。
ストックマークを創業した2015年頃の問題意識は、「人間と情報との間に存在するミスマッチを解消したい」というものでした。少し古い調査ですが、総務省の「情報流通インデックス」によると、01年から09年にかけて情報流通量が2倍になったのに対し、人間の情報消費量は10%しか増えていない。このギャップにチャンスがあると思いました。
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