一休社長の榊淳氏と AIスタートアップ、ストックマーク(東京・港)の林達社長との対談の3回目。データサイエンスにして経営者である2人の議論は、自然言語処理(NLP)の発展が変える未来の仕事術や組織のあり方に及んだ。
榊淳氏(以下、榊氏) 前回のお話で、AIの応用が「分類」「予測」から「生成」へと向かうことは分かりました。NLPにおける「分類」は、どう進化するのですか。
林達氏(以下、林氏) AIは、人間の行動をどう理解して、再現するかを1つのテーマとして、発展してきました。その実現においてカギとなるのは、人間の意思決定プロセスをどう細分化して、分類するかです。
例えば、会議の日程調整の場合。メンバーから日程の候補が届くと、その時間帯の状況を見て、「この日時にしよう」などと選んでいます。つまり人間が頭の中でやっていることの多くは、分類作業なのです。
AIで人間の意思決定をサポートする上で、僕たちが重要と考える要素が3つあります。第1に分類の精度。第2に意思決定のスピード。そして第3がプロダクトのユーザー体験です。
人間がAIよりも優秀なところは、1つのモデルだけで判断していないことです。例えば、皿に盛ったリンゴに「ふじ」と「つがる」という品種が混じっていても、人間は見分けられます。しかしAIは今のところ、品種の違いまでは判断できない。人間と同じように瞬時に仕分けられるようにするには、色や品種のようなモデルを複数作る必要があります。
榊氏 その話をNLPにおける分類に当てはめると、どんなことが言えますか。
林氏 ストックマークでは「Anews」「Astrategy」「Asales」の3つのプロダクトを提供しています。Anewsでは毎日30万件の記事をクローリングし、プロファイル情報を解析することで、ユーザーの興味のある記事だけを配信できるサービスです。
Astrategyは、記事データベースの中からユーザーの関心あるテーマごとに自動的に記事を分類するものです。例えば「ブロックチェーン」で検索すると、該当する記事を瞬時に分類、見つけ出して、主要なプレーヤーがどんな動きをしているかを可視化できます。
記事の中から企業名を自動的に判定し、大企業だけでなくスタートアップの動向も、分かりやすく表示できます。人間の頭を構造化して、今、起きていることを発見しやすくすることを狙いとしています。
3つ目のAsalesは、商談メモを解析するプロダクトです。数万件の商談データを統計処理して分類し、そのグループごとの特性を学習します。例えば、受注した商談のグループから、その商品に関する顧客のニーズ、失注した商談グループからは、失注の理由を抽出することが可能です。
提案書の解析もできます。提案書の中から「このページが顧客に効果的だ」ということを、バイアスなく、客観的に教えてくれます。スキルの高い人の頭の中を構造化し、再現してくれるのがこのプロダクトの特徴です。
榊氏 情報の非対称性を無くして、優秀なアシスタントがアドバイスをしてくれるわけですね。これはどこかの企業と一緒に開発したのですか。
林氏 そうです。今は、ある旅行会社グループの法人営業の部門と一緒に、SaaS化を進めています。
榊氏 Anewsが社内向けのニュースキュレーションSaaS、Asalesが営業向けのアシスタント機能を提供するSaaSだとすると、Astrategyというのは、どんなことをサポートするのですか。
林氏 Astrategyは、Anewsと同じデータベースを使っていますが、市場動向を俯瞰的に見ることができるサービスです。どこの会社がどんな動きをしているかを可視化するので、例えば、榊さんが戦略コンサルタント時代に部下に依頼していたような、情報収集のためのリサーチを、意思決定者が自分でこなせます。
榊氏 それはすごい。ではストックマークが今手掛けていることは、この先の5年後、10年後にどう発展していくのでしょう。
林氏 BtoBのビジネスは積み重ねです。企業の中での意思決定の再現性の精度を高めていくと、最終的にはクリック1つで正しい意思決定が可能になるでしょう。究極的には、ビジネスをしている人たちは、「ものを作る人」「ものを売る人」「意思決定をする人」の3種類だけになり、その中間にいる人たちは、必要が無くなるかもしれません。
榊氏 それは大きな変化ですね。
林氏 ええ、ビジネスのあり方が根本的に変わります。AIが優れているのは「自律性」です。データをインプットして、アルゴリズムを整えてやると、人間よりも精度の高いアウトプットを出します。
「YouTube」がおすすめ動画の精度を上げたことで、視聴時間を延ばして収益性を高めたように、アルゴリズムをチューニングするプロセスはあるとしても、人間は人間にしかできないことに集中できるようになるわけです。
大企業に1000人の社員がいるとすると、今は990人が既存事業を担当していて、新規事業の担当は10人といった具合でしょう。この比率は将来、逆転すると思います。
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