人気連載『イノベーション異論』の一休社長・榊淳氏による新連載。気鋭のデータサイエンティストを訪ね、「データサイエンスの未来」を語り合う対談企画だ。今回はAI(人工知能)スタートアップ、HAiK(東京・渋谷)の山内宏隆社長との対談の3回目。GAFAなど米国勢とBATなど中国勢とのAIを巡る覇権争いが激化する中、日本企業の生き残りの道はどこにあるのか、議論する。
榊淳氏(以下、榊氏) ここまでのお話で、AIの入力系、処理系、出力系の全ての精度が向上していると分かりましたが、まだ人間の能力が勝る分野は残っていますか。
山内宏隆氏(以下、山内氏) 機械にとっては(高度な)推論よりも(人間であれば幼児でも身につけているような)感覚や運動スキルの獲得の方が難しいという、「モラベックのパラドックス」というものがあります。
例えば、洗濯物を畳むという動作を機械がやろうとしても、きれいにたたむ以前に、絡まっている洗濯物を解きほぐすことができません。人間であれば子供でもできることですが、手を使うタスクは頭を使うタスクと比べて、はるかに多くの計算資源を必要とします。
介護士、美容師、マッサージ師のような仕事がAIに取って代わられる可能性は今のところ低い。その一方で、将来が危ういのはいわゆるホワイトカラーの仕事です。AIは体系化されていて、情報量の多い分野が得意ですから、子供たちの世代の人生設計は、どうなることでしょう。
難関である「士業」の業務のうち、定型的な部分はAIに置き換わっていくと思います。僕たちの事業の一つであるリーガルテックは業法の壁に守られている分、まだ市場を作る余地が残されていると思います。
榊氏 なるほど。ではHAiKがもう1つの事業として、介護を選んだのはなぜですか。
社会との不断の対話が必要
山内氏 医療だと、例えば画像診断分野などでAIの適用が進んでいるのですが、介護分野への適応は遅れています。「おじいちゃん、今日は元気?」のような自然言語が関係しますし、医療と比べて介護は規制が厳しくないのがポイントです。
技術が発展すると、その影響は経済にとどまらず、社会から政治へと波及します。産業革命のときに職人の仕事がなくなり、機械を打ち壊すラッダイト運動が起きたように、AIでも同じことが起きるでしょう。
構造的に「技術と経済」の連合と「社会と政治」の連合との対立が顕著になっていくでしょう。その意味で、AIの会社は規制とどう向き合うか。社会との対話が求められると思います。
榊氏 なるほど。中国のような国は、社会と政治がそもそも一体化していますから、権力で反動を排除できますからね。
山内氏 だから米国は、共和党も民主党も中国を攻撃するのです。目当てはAIと5Gに関する覇権ですね。日本企業としては米中の隙間をかいくぐって、おいしいところを確保しないといけません。
榊氏 HAiK自身はその環境の下で、どう立ち回るつもりですか。
山内氏 HAiKの強みは、戦略立案(PoC)からアルゴリズムの実装までを一気通貫でできることです。業態としては、インターネットビジネスが活性化した時のSIPS(戦略的インターネット・プロフェッショナル・サービス)に近いです。
SIPSの場合、単なる受託開発になって凋落するわけですが、その轍を踏まないようにするには、どこかのタイミングで切り替えて自分たちのビジネスを立ち上げる必要がある。受託の仕事が続くと、優秀な人ほど辞めていきます。それが分かっていたので、早く自前の事業を立ち上げようと思っていました。
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