人気連載『イノベーション異論』の一休社長・榊淳氏による新連載。気鋭のデータサイエンティストを訪ね、「データサイエンスの未来」を語り合う対談企画だ。今回はAIスタートアップ、HAiK(東京・渋谷)山内宏隆社長との対談の2回目。AIの進化で何が可能になり、産業界にどんな影響が及ぶのかを考察する。
榊淳氏(以下、榊氏) 前回のお話で、AIのインパクトが非常に大きいことはわかりましたが、これからはどんな変化が起きると考えていますか。水平分業が進んだ社会では、横(異業種)からの新規参入に既存勢力は弱い。特にグローバルプレーヤーの参入は脅威になりますね。
山内宏隆氏(以下、山内氏) AIを入力系、処理系、出力系とプロセスごとに分けると、変化は、この全てに及ぶでしょう。順番で言うと、最初は入力系の変化です。
カメラやセンサーの普及により、テキストのみならず画像、音声、動画という視覚と聴覚の領域をカバーします。においセンサーもあるので嗅覚もカバーできる。こうしたセンサーのコストが低下しているので、人間が知覚できないレベルのデータを、いくらでも収集できるようになっています。入力系の限界でAIが発展できないというストーリーは、もはや成り立ちません。昔は高価だったジャイロセンサーも、カメラに続いてスマートフォンの中に入るまでになりました。
榊氏 機械に限界はありませんからね。PEST(政治、経済、社会、技術)における技術と経済は前進あるのみで、ガンガン行くわけですね。
山内氏 ええ。ブロックチェーンのような民主的で分散型の技術とは違い、ビッグデータやAIは優秀な人材を集められる大企業に有利です。資本家や権力を持つ統治者は積極的に投資を進めようとしますが、社会からは反発も出てくるでしょう。当初、インターネットは民主的な技術だと見られていましたが、今ではすっかり資本家の技術になりました。
榊氏 確かに。当初は民主的な存在だったのに、気付いたら、GAFAなど米カリフォルニア帝国のものですからね。なぜ資本家のための独占的な技術になってしまったのか不思議ですが、一方で、GAFAはユーザーには支持されています。結局は多くのユーザーに支持されるものを作った方が勝ちということですか。
山内氏 支持はされていますが、自分たちユーザーのためになることをしているわけではないことに、多くのユーザーが気づいていないのが現状です。欧州のGDPR(一般データ保護規則)のように、個人のデータ利用を各国で規制する動きが出てきているのは、そのためでしょう。「そんなデータまで取るな」という水準に達するわけで、今後も政治から規制が入る可能性が高いと考えています。
榊氏 入力の次の処理系というのは、具体的にはどんなことですか。
山内氏 集めたデータを処理するアルゴリズムのことです。画像や音声を認識するアルゴリズムの性能は、すでに人間を超えています。自然言語処理(NLP)のブレークスルーが起きたのが2018年。画像認識、音声認識にNLPを組み合わせるマルチモーダル化が始まりました。
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