中国の地方都市にある中小・零細小売店約130万店をネットワークしたアリババ集団のプラットフォーム「零售通(LST)」を活用して、売り上げ急増を実現した日本企業の1つが、キャンディーやグミで知られるUHA味覚糖だ。同社は、中国事業を進めるうえでなぜLSTを必要とし、どのような成果を上げたのか。
UHA味覚糖が中国市場に進出したのは、日本企業独自資本による会社設立が認められた2001年。上海に会社を設立し、自社工場まで建てての取り組みだった。03年には日本でも人気の高いキャンディー「特濃ミルク」を、続いて05年にはグミ「ぷっちょ」を発売したものの、当初は思うように売り上げを伸ばせなかった。
転機になったのは08年。上海以外の1級都市、2級都市にも、主に大手スーパーに商品を供給する形で販売地域を拡大し、商品ラインアップにもキャンディーとグミに加えてチョコレートやソフトキャンディーを追加。さらに、当時の売り上げ目標の約5倍に当たる資金を投じて、台湾の人気タレントを起用したテレビCMを上海中心に展開した。その結果、商品の認知度が上がり、毎年売り上げが増え続けたのだ。
ところが、売り上げ好調を受けて中国に工場を新設した11年をピークに、今度は売り上げが下がり始める。EC市場が急速に発達し始めた中国の市場の変化に気づけず、大都市圏のスーパー中心という販売チャネルを変えなかったためだ。16年からは、訪日中国人の間で「帰国土産」として人気が高かった「コロロ」というグミが中国でもヒットするという“神風”が吹き、売り上げは増加に転じたが、「中国市場で成長を果たすためには、このままの取り組み方でよいのかと再考を余儀なくされた」(UHA味覚糖の山田泰正社長)。
地方での販売力不足が課題
着目したのは、上海などの1級都市とそれ以外の地域での、UHA味覚糖商品の売れ行きの差だった。アリババ集団が出資し、中国全土に展開しているスーパー「大潤発(RTマート)」で販売されている菓子類のメーカー・ブランド別市場シェアを見ると、UHA味覚糖は上海エリアで10.5%を獲得しているのに、その他のエリアでは半分以下の3.7%のシェアしか得ていなかった。今後の成長のためには、中国の1級都市以外の市場を開拓する必要があると分かった。
ところが、中国の地方市場を開拓するのは簡単ではない。これまで多くの飲料・食品、日用品、家電といった分野の日本メーカーが挑戦し、十分な成果を上げられずにいた。まず、大手スーパーのようなチェーンストアではなく、地域の中小・零細の小売店と取り引きのある数多の代理商と個別に交渉しなければならず、ここにかかるカネと手間がばかにならない。また、実際に取り引きが成立し、商品が流通し始めても、菓子メーカーとして看過できないいくつもの問題があった。
小売店の多くは、商品を棚ざらしにするので商品の品質が劣化しがち。類似の商品とごちゃまぜにして安価で売る小売店や、価格の高い日本の商品を購入した消費者に中国現地製のより安価な商品を薦める小売店も少なくなかった。つまり、中国の地方市場に商品を流通させるには、カネも手間もかかる割に、ブランド毀損のリスクが高かったのだ。
キックオフから3週間でLSTを導入
手詰まりに陥っていたUHA味覚糖が19年2月下旬に出会ったのが、アリババ集団のLSTだ。UHA味覚糖のほうからアリババ日本法人に問い合わせた後、話がとんとん拍子に進み、3月13日にUHA味覚糖の上海オフィスでキックオフミーティングを開催。3月21日にはアリババ集団の本社がある杭州でLSTにどう取り組むかという共同会議を実施。その場でさまざまな事柄を決定して、4月1日から、LSTのプラットフォームを使ったUHA味覚糖商品の販売にこぎつけた。
キックオフからスタートまでわずか3週間である。アリババ日本法人社長 CEOの香山誠氏は、「UHA味覚糖は山田社長自身が中国にも赴き、必要な決断をその場で下していた。このスピード感がなければ中国でのビジネスは成功しない」と当時を振り返る。
ではUHA味覚糖から見た場合、LSTのプラットフォームを活用したことで、いったい何が変わったのか──。
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