若手キーパーソンが、2020年とその先のトレンドを占う本特集。今回は、東京五輪・パラリンピックで使われる車いすを開発するRDS(埼玉県大里郡寄居町)の社長、杉原行里氏を紹介する。測定装置や3Dプリンターの普及で個人に最適化した製品を実現可能になり、「大量生産は終わり、パーソナライズの時代へ移行する」と話す。
RDS社長
車いす陸上の伊藤智也選手が自己最高記録を更新し、東京パラリンピック代表に内定した。伊藤選手が操る競技用車いす「WF01TR」を開発したのが、工業デザインを手がけるRDS(埼玉県大里郡寄居町)だ。同社社長の杉原行里氏は、「伊藤選手は56歳。本来なら、体力が衰えて、周囲からもう引退する時期と見られる年齢でもある。パラスポーツは身体と先端テクノロジーの融合という側面があり、これまでの年齢の限界を超えられる」と話す。
伊藤選手は、2012年のロンドンパラリンピック出場後に一度は現役引退を宣言したものの、杉原氏の熱心な説得を受けて競技に復帰。RDSは、伊藤選手を開発ドライバーに迎え、競技用車いすの開発に着手した。加えて車いすに座った身体の状態を測定する「SS01」を千葉工業大学未来ロボット技術研究センターfuRoと共同で開発した。
パラスポーツはF1に似ている
SS01は最先端のロボット工学を応用した車いす型のシミュレーターで、直接座った状態で背もたれや座面、車輪の位置を1ミリ単位で調整できる。SS01を用いることでアスリートが最も良いバランスになるポジションを短時間で発見できる。さらに、座った状態の身体形状を測定し、3次元データを出力。そのデータから3Dプリンターを使って、パーソナライズされた座面を作成できる。またハンドリムの回転速度、回転トルク、重心移動を計測できる機能も備え、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる車いすの条件を数値で把握できるようになった。
伊藤選手は、19年11月、ドバイ2019世界パラ陸上競技選手権大会に出場し、男子100メートルで自己記録を2秒縮めた。このとき搭乗したのが、SS01を使って伊藤選手の身体に最適化されたWF01TRだった。
20年の東京五輪・パラリンピックで、パラリンピックへの視線はどう変わるのか。杉原氏は、「エンターテインメントとしてのパラスポーツの魅力が開花する」と話す。「我々はCSR(企業の社会的責任)の一環でパラスポーツに関わっているのではない。先を見据えたビジネスプランを描いている。ある意味、パラスポーツはモータースポーツのF1に似ていると思う。F1は自動車とドライバーの肉体が融合したスポーツであり、エンターテインメントの一種だ。そして、自動車関連企業が高度な技術をテストする場でもある。F1で導入された技術は、後に一般の乗用車などに展開され、多くの人が恩恵を受けている。我々もパラスポーツをエンターテインメントと捉えており、東京五輪・パラリンピックはそうしたメッセージを発信する最高の場になる。ここで開発した技術を他の分野に応用していきたい」と言う。
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