音声テクノロジー業界専門のカンファレンス「VOICE Summit 2019」をリポートする本連載。前回に続き、音声アシスタントの世界を体験できるワークショップの様子をみていく。音声入力を使ったユーザーインターフェース「VoiceUI」(VUI)を使ってサービスをデザインするうえで、企業が何を最重視すべきかが浮かび上がった。

VOICE Summit 2019では、音声を使って企業がどう事業戦略を立てるべきかフレームワークを学ぶなど中身の濃いワークショップが多数開かれた
VOICE Summit 2019では、音声を使って企業がどう事業戦略を立てるべきかフレームワークを学ぶなど中身の濃いワークショップが多数開かれた

 今回紹介するのは、米ボイスボット・ドット・エーアイ創業者であるブレット・キンセラ氏のワークショップ「Voice Strategy Workshop」についてだ。同社は、音声アシスタント業界の情報を世界一速く紹介すると評判の人気メディアを運営している。満員の会場では、データに基づいて音声アシスタント市場を俯瞰(ふかん)しつつ、音声を使って企業がどう事業戦略を立てるべきかフレームワークを学ぶことができた。

 同氏の話で印象に残ったのは、音声ビジネスを8つのカテゴリーに分けて考えるということだ。「Generate Awareness(気づきを与える)」「Create Engagement(エンゲージメントの醸成)」「Facilitate Transaction(取り引きを誘導する)」「Enable Distribution(配布を実現)」「Share Information(情報の共有)」「Service Customers(カスタマー向けサービス)」「Integrate Into Product(プロダクトへの統合)」「Improve Operations(オペレーションの改善)」で、それぞれについて成功事例を紹介した。

ワークショップ「Voice Strategy Workshop」の様子。ブレット・キンセラ氏は世界の音声業界でカリスマ的存在だ
ワークショップ「Voice Strategy Workshop」の様子。ブレット・キンセラ氏は世界の音声業界でカリスマ的存在だ

 一例として取り上げたのは、カリフォルニア発クラフトビールのブランド「ラグニタス・ブリューイング」である。創業者は大学で作曲を学び、音楽をヒントにした新しいビール作りに取り組んでいるメーカーだ。

 同社が開発した米アマゾン・ドット・コムのVUI「Alexaスキル」および米グーグルのVUI「Google Action」では、ブランドのストーリーを独自のナレーションと音楽で聞くことができる。Webサイトで言うところのランディングページを作るようにブランドのアイデンティティーを表現し、ユーザーとの新しい接点の1つとして音声コンテンツを届けている。

 もう一つの例が、ボストン小児病院。同病院は、2016年に世界で初めてヘルスケア領域でAlexaスキル「Kids MD」を公開した。子供の体調不良に関して症状から適切な薬を探したり、病院へ行くべきかのアドバイスを得たりできる。1日に10万ものインタラクションがある人気スキルである。

 人気の理由は、「調べたい」よりも「気軽に相談したい」というユーザーの深層心理にあるようだ。相談相手が病院という信頼できる存在だから話しかけてみようという気持ちになるわけで、ヘルスケアテック分野での音声活用例として注目したい事例である。

 いずれも、Generate Awareness(気づきを与える)のカテゴリーの例だ。業界も利用シーンも全く異なるものの、音声アシスタントが日常の行動を後押しするきっかけとなる点で共通している。ブランディング戦略にも音声アシスタントが使えるツールであることを感じさせる事例といえるだろう。

音声ビジネスで企業はどう戦略を組み立てるべきか

 本ワークショップでは、上述した8カテゴリーのそれぞれで、自社やクライアント企業が提供可能な価値や競合分析について洗い出す作業をおこなった。その中でキンセラ氏は、音声ビジネスの戦略を組み立てる際に重視すべき4つのタイプ別マトリックスがあると語った。

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