絵本のページをめくるとカレーのレシピ、付録には本物のスパイス……。食育体験ができるスパイス付き絵本『レッツ・ゴー☆バターチキンカレー』は、ハウス食品がIDEOと共に取り組んだプロジェクトから生まれた成果の、1つの姿だ。同社ではデザイン思考を取り入れたこのプロジェクトによって、企画開発の進め方や社内の仕組みにも変化が現れてきたという。

2020年8月に発売したスパイス付き絵本『レッツ・ゴー☆バターチキンカレー』。デザイン思考を取り入れたプロジェクトから生まれた。クミン、コリアンダー、ターメリック、ガラムマサラの4種類のスパイスが付属する
2020年8月に発売したスパイス付き絵本『レッツ・ゴー☆バターチキンカレー』。デザイン思考を取り入れたプロジェクトから生まれた。クミン、コリアンダー、ターメリック、ガラムマサラの4種類のスパイスが付属する

今までと同じ方法で新しい成果は生まれない

食品メーカーが絵本を作ったというのは意外です。このプロジェクトは、どのように始まったのですか?

黒田英幸氏(以下、黒田氏) もともと社内で、既存事業に加えて新しい領域を開拓しなければという強い危機感があって、2016年春から取締役直轄のプロジェクトチームで活動していました。しかし、プロジェクトを進めていくなかで「今までと同じやり方では、新しいものはできないのではないか」という壁に当たりました。それで、ネットの記事でIDEOさんのアプローチに興味を持ち、17年の年明け早々に訪ねたんです。

今までと同じやり方、というのは?

黒田氏 担当者が頑張ってアイデアを出し、コンセプトを立て、サンプルを作り、お客様調査にかけて、発売する、という流れです。仮説を検証していくやり方なので、すべては最初のアイデアの良しあしにかかっています。

黒田 英幸
ハウス食品 新領域開発部1グループ グループ長
2000年ハウス食品株式会社へ入社。営業、マーケティング、製品企画、新規開発プロジェクトの経験を経て、18年4月より現部署。プロジェクト時代にIDEOとのプロジェクトチームを立ち上げ、「デザイン思考」を取り入れた企画開発を実践。現在は新領域開発部にて、その後立ち上げた事業の拡大に取り組む。

上田陽介氏(以下、上田氏) 決して今までのやり方がだめというわけではありませんが、新しいものを考えるには、新しいアプローチが必要なのではないか、ということです。

その相談を受けて、IDEOとしてどのように対応したのですか?

岩下 恵氏(以下、岩下氏) まず出発点を探るところから始めました。最初は経営陣のインタビューです。続いて、経営陣も開発陣も含めて、デザイン思考のアプローチについて理解してもらう場を持ちました。このとき部署の垣根を越えてお話しできたおかげで、その後もあらゆる方向からインプットをもらうことができたと思います。

会社に入って誇らしく感じたことを思い出す

実際の活動はどのように?

黒田氏 実質3カ月の間、コアメンバーの3人は週に最低1、2回はIDEOさんのオフィスに通いつめました。ちょうどその頃、当社の研究所にも同じように新規のプロジェクトチームがいて、コアメンバーの3人と合わせて現在の新領域開発部の母体になりました。そのフルメンバーでも月に1、2回は通ったと思います。

チームで集まって最初にしたことは?

黒田氏 最初のミーティングで、みんなに「今までハウスに入って、一番うれしかったこと、誇らしく思ったことは?」と尋ねて、そこから自分たちが本当にやりたいことは何なのかを議論しました。その結果、絞り込まれたのが「スパイス」です。

「自分たちがやりたいこと」から出発したのは、なぜですか?

上田 陽介
ハウス食品 経営企画部マーケティング企画課チームマネージャー
2007年ハウス食品株式会社へ入社。営業、調査の経験を経て、13年10月に現部署。中期計画策定や予算編成業務に携わる中、「成熟マーケットにおける開発スタイルの在り方」について取り組む。自身でも開発プロジェクトに参加しながら、社内の仕組みづくりやその推進役を担う。

岩下氏 IDEOでは、新しいことを実現するには「3つのレンズ」が必要だといっています。「人」から考える有用性、「技術」から考える実現可能性、そして「事業」から考える持続可能性です。その中でも原点となるのは「人」です。「人」とはユーザーだけでなく、自分たち自身のことでもあります。

黒田氏 印象的だったのは、みんなが「ハウスに入って誇らしかったこと」を語るうちに、毎日の忙しさのなかで忘れかけていた「食品は生活や社会を直接変える力を持っている」という思いが浮上したことでした。それが「スパイスをもっと日本の食文化に根付かせていきたい」というテーマにつながりました。

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