日本事務器(NJC、東京・渋谷)は大正13(1924)年創業。長年にわたり、ITを通して顧客の経営課題を解決するコンサルティング、システムの企画・開発・運用・保守までトータルサポートをしてきた。そのNJCがデザイン思考を取り入れて、変わろうとしている。既存の事業領域とはかけ離れた「食」分野へ進出する理由とは。

日本事務器(NJC)はデザイン思考を活用しつつ、新事業「fudoloop(フードループ)」を開発した
日本事務器(NJC)はデザイン思考を活用しつつ、新事業「fudoloop(フードループ)」を開発した

なぜIT企業が「食」に進出するのか

そもそもNJCさんは、デザイン思考あるいはIDEOさんと、接点があったのですか?

黒崎 秀二氏(以下、黒崎氏) どちらも全く知りませんでした。4年前の2016年、会社の中期経営計画と連動して「新ビジネス企画開発本部」を立ち上げた頃に、人づてで米IDEOのサンフランシスコスタジオを訪ねたことが始まりでした。

そこから、生まれたのが「fudoloop(フードループ)」という新事業ですね。どういう経緯で農業や食というテーマにつながったのですか?

 fudoloop(フードループ)は、食産業全体の持続可能性をサポートする目的でNJCが19年5月にスタートさせたサービス。第1弾として、青果の生産者と卸売業者の販売担当者との取引において、青果物の出荷情報を共有するための「出荷コミュニケーションを中心としたサービス」を提供している。生産者からの出荷情報と小売業者からの注文数、産地や特色など希望条件を把握し、適正価格で取引することを支援する。

佐藤 賢一氏(以下、佐藤氏) 新ビジネス企画開発本部では、従来のビジネス領域のことはいったん忘れて、まっさらな目で世の中を見るところからスタートさせました。自分たちの強みはいったん脇へ置いておき、メンバーそれぞれが「自分は何をしたいのか」を考えました。

 チームは20代から40代まで。営業、企画、エンジニアなど、背景もスキルも知識もばらばらの顔合わせです。それぞれ心の中にあるものをオープンに話し合った結果、出てきたキーワードが「地方創生」でした。そこからさらにIDEOさんにも入ってもらい、1~2週間の議論を経て、「食産業」にチャレンジしたい、となったのです。

佐藤 賢一(写真右端)
日本事務器 取締役執行役員常務 CMO事業戦略本部長
グループ会社へ出向し新規事業の立ち上げを経験。その後、首都圏支社・営業本部 営業統括部長を経て、2017年から新ビジネス企画開発本部(Team Finches)にてデザイン思考を取り入れ、ビジネス創出プロジェクトの責任者として参画。現在はCMO(最高マーケティング責任者)、事業戦略本部長として自社のビジネスモデル変革に取り組む。

会社の今の事業と関係なく、「何をやりたいか」から始めるところが面白いですね。

佐藤氏 我々の会社は、ビジネスに初めてコンピューターが入ってきた頃からお客様のIT化をサポートしてきました。それが今は一通り行きわたった段階です。そこで、いったんまっさらな目で世の中を見てみよう、と考えたのです。

黒崎 秀二(写真左:日本事務器CEOの田中啓一氏、写真右:黒崎氏)
日本事務器 執行役員 経営企画部長
業務管理部長、総務部長を経て、2015年から現在まで、経営企画部長として中期経営計画の策定などの経営戦略を担当する。デザイン思考の社内普及の役割も担う。また、近年は企業ブランディングにも取り組む。18年4月より、Nippon Jimuki Singapore Pte. Ltd.のDirectorを兼務。

田仲 薫氏(以下、田仲氏) 新しい事業領域に進出しようとするとき、最後に支えとなるのは、個々人の「やりたい」という思いです。個人として共感できるテーマを選ぶことが、一番の力になります。

佐藤氏 食、農業という分野で、これまでの仕事の経験から、この領域でチャレンジしたいと考えたのが「食産業のサプライチェーンを変える」というテーマです。

結果だけでなく、プロセスを全社で共有

しかし、100年近い歴史を持つ御社が、今まで全く接点のない分野に入っていくことを、社内に納得してもらうのは大変だったのでは?

黒崎氏 そもそもこのチームを立ち上げたときから、社長が自ら担当役員として、メンバーが動きやすいように配慮してくれていました。そういう意味では一般的な案件とは違いました。

田仲氏 NJCさんの場合、トップもチームの一員として一緒に悩むという感じでしたね。常に社長自ら、一番リスクのある、チャレンジングな道を行くことを喜び、受け入れて……。チームが難題に悩むことを楽しまれていて、それがチームメンバーにも伝わっていました。

田仲 薫(写真中央)
IDEO デザイン・ディレクター
ユーザーエクスペリエンス(UX)、ブランディング、マーケティング、デザインリサーチ、サービスデザインなどの幅広い実績を生かし、クライアントやチームの戦略・実行プロセスを支援するデザイン・ディレクター。慶應義塾大学環境情報学部卒。

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