デザイン思考の成功と失敗の分かれ目についてIDEO Tokyoに聞き、組織内でぶつかりがちな壁が見えてきた。今回は具体的なプロジェクトに取り組んだ例として、JAXAとIDEOが“人々の体験”に焦点を当てて共創した未来の空のシナリオ「Future Blue Sky」について聞いた。数々の壁を乗り越えられた理由とは?

新しいテーマが見つからない

Future Blue Sky」というプロジェクトはどのように始まり、どう壁を乗り越えていったのでしょう。

岡本太陽氏(以下、岡本氏) 私たちJAXAの航空技術部門は、航空科学技術に関する最先端の研究を通じて世の中にインパクトを与える研究を生み出す取り組みを行っています。中でも、私が所属していた事業推進部の企画ラインは、そのための企画提案をしていくことが本来の役割です。

 しかし実際には、維持・管理的な仕事に追われてしまう日々。自分たちが本当に価値を感じる、面白いと思えることをしたくて、保江(かな子)さんと上司の3人で議論していたのが始まりです。

 ちょうど新しい中長期計画を考える時期で、新しい研究の方向性を見つけるために、現場を含めて組織全体が頭をひねっていました。

「新しいテーマが見つからない」というのは、一般企業とも共通する課題ですね。

岡本氏 これには2つの背景がありました。この7~8年ほど前に、自分たちの先端的な研究の成果が本当に世の中に役立っているのかを問われた時期があって、その後5年間ほどは研究成果の社会実装に力を入れ、成果を上げることができました。そうした活動がうまく回り始めた一方で、成果の源になる「研究の在庫」が少なくなってきたのです。これが1つ。

 もう1つは世の中が複雑になって、いわゆる異分野融合型のアプローチを取り入れないと、新しい価値が生まれづらくなってきたことです。

岡本太陽
宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 
第一宇宙技術部門 事業推進部

大学卒業後、旧宇宙開発事業団に入社。文部科学省出向、調査国際部等を経て、経営学修士(MBA)を取得。その後、航空技術部門にて事業の企画・運営を担当する中で、「Future Blue Sky」プロジェクトに参加。現在は、第一宇宙技術部門にて人工衛星データの利用を推進する仕組み作りなどにも取り組む。

IDEOとの協働が実現した経緯は?

岡本氏 新しい研究テーマを考えるには、何らかの新しい手法も必要だと考えました。それまで私たちは産業界のニーズに応えることを大切にしてきました。他方で、そこから大きく離れて何か発想するということはあまりしていませんでした。

 私たちの仕事は、研究した技術を産業界などに移転して社会実装していく、いわゆるB2Bです。しかし今回は、その先にいる生活者が何を求めているかという目線からスタートしようと考えたのです。まず、人々の生活の未来像を描いて、それをブレイクダウンして新しい技術へのヒントを探そうと考えました。

 それでIDEOの「人間中心のデザイン思考」が視野に入ってきたのです。対象となる「人」を観察し、共に体験し、本人さえ気づかない潜在的な要素も視野に入れて新しい発想を得ようとするアプローチが魅力でした。何の接点もないところから、IDEOの門をたたいたのは2017年だったと思います。

内部のゴーサインはスムーズに出たのですか?

岡本氏 スムーズどころかハードルだらけでした(笑)。そもそも新しい研究テーマ創出のために、外部のコンサルティングファームに協働を依頼すること自体、前例がなかったし、社内では、まず「デザイン思考」の説明から始めなければなりませんでした。

 しかし、海外の航空宇宙分野では、いち早くデザイン思考に類するアプローチを採用し、社会や生活者目線からゴールを設定する取り組みが、数は少ないものの先例として存在しました。具体的には、NASA(米航空宇宙局)やエアバス社など、です。こうしたベンチマークもよりどころとして、我々のプロジェクトを進めていきました。

具体的にはどのように進められたのですか?

岡本氏 まさにデザイン思考のフルプロセスです。デザインリサーチからインスピレーションを得て、気づき、キーワードを見つけ、問いを立て、さらにリサーチを重ね、アイデアのプロトタイプをつくりながら、JAXAとしてやるべきことを選びました。

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