デザイン思考を日本企業に導入し、活用していくなかでの典型的な「壁」が浮かび上がってきた。その1つは、「遊び」の要素を許容しにくいこと。発想を広げる「遊び」があってこそ、デザイン思考は効果を発揮する。この壁と克服法について、IDEO Tokyoのダヴィデ・アニェッリ氏と堤惠理氏に聞いた。

堤 惠理
IDEOシニア・デザイン・リサーチャー
10代を米国とトルコで過ごした経験から、文化の違いに関心を持ち、大学で文化人類学を学ぶ。広告代理店にてコピーライターとして10年間勤務した後、IDEOに入社。ロンドン大学セントラル・セント・マーティンズにてイノベーション経営学修士号を取得。幸せに関する自身の研究をロンドンのTEDxHackneyで発表した経験も持つ

デザイン思考には「遊び」が欠かせない

日本の企業文化の面で、デザイン思考がうまくいきにくい要因はありますか?

堤惠理氏(以下、堤氏) デザイン思考に取り組む際に、「答え」をすぐに求め過ぎるように感じます。すぐに答えが分かるものであれば、そもそも新しいものを創りだすための努力も要りませんよね。

 答えが分からないものを生み出すアプローチには、「遊び」に近いものが求められます。「遊び」には最終目標がありません。意図せずやっているうちに何かができたり、できたものを壊したりすることを繰り返します。デザイン思考のプロセスはこれに近いのです。

 デザイン思考のプロセスではリサーチを行い、その結果得られたインサイトを共有して統合するシンセシスがあり、ブレーンストーミングでアイデアを出し、プロトタイピングでそれを形にしますが、その各ステージで「遊び」の要素が入ってきます。

 例えば、着想のためのリサーチでは、ユーザーやデザインの対象となる人々の視点を理解し、共感するために「ごっこ遊び」のようなこともします。赤ちゃん用品の開発プロジェクトでは、保育園のような空間をつくって、その中に入ってみたり、自分より大きいモノに囲まれてみたりして、赤ちゃんの目には世界がどう見えているのかを疑似体験しました。

 また、プロトタイピングのプロセスは工作や積み木に近く、手を動かしたり、できたものを触ってみたり、壊してみたりして、初めて分かることがたくさんあります。モノでなくサービスの開発なら、寸劇をしたりもします。これは「お店やさんごっこ」に近いですね。

各ステップに「遊び」の要素がないと、うまく目的にたどり着けないのでしょうか?

堤氏 最初から答えがある課題ならいいのですが、今までと違う方向を探ったり、これまでないものを作ったりするには、仕事マインドを一度忘れること。そして遊んでいる時のように柔らかい頭に切り替えて、インスピレーションを得るための「余白」を広げていく時間が必要なのです。

組織が「遊び」を許容できるか

ダヴィデさんの視点からはいかがでしょう。仕事に「遊び」の要素を取り入れることについて、日本企業の反応に特徴はあるでしょうか?

ダヴィデ・アニェッリ氏(以下、アニェッリ氏) 私は欧州で育って、米国と日本で仕事をしてきたのですが、どの国でも「仕事の中の遊び」はあまり歓迎されませんでしたね(笑)。国による差というより、組織による差のほうが大きいと感じます。

 ただ、日本では仕事に「遊び」を取り入れるための裁量が少なく、そのために機会も少ないとは感じます。個々人は遊び心を持っているのに、それを仕事に持ち込みにくい。仕事において、すべきことと、してはいけないことの線引きが厳密な印象です。

ダヴィデ・アニェッリ
IDEO Tokyoマネジング・ディレクター
2004年に入社し、パロアルトおよびサンフランシスコ・オフィスにてデジタル・デザインのオファーと機能開発支援を担当。13年以降は東京にて、日本企業が創造性を解放し、グローバル市場で優位性を発揮できるよう支援する。イタリア、パヴィア大学でコンピューター・サイエンス学修士号、イヴレーアInteraction Design Instituteにてインタラクティブ・デザイン学修士号を取得

それは、したことの責任を取らなければならないから?

アニェッリ氏 それもあります。私たちがよく言うのは、先に許可を取ることばかり考えるのではなく、自分で判断して行動し、後で認めてもらえばいいのではないか、ということです。

 あらかじめ許可を取ろうとすると、あちこちに配慮してややこしい手続きをしなければならない。だから当人がオーナーシップを持って判断し、行動してしまうのです。行動し、体験すれば、必ず得るものがあります。

 しかし、一人ひとりがそうやって行動できるようにするには、進んで「遊び」を取り入れられる「安全な環境」、つまり、組織としてそれを許容する文化が必要です。

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