日本でも言葉としてはすっかり浸透した「デザイン思考」だが、見えてきた課題もある。デザイン思考を世に広めたIDEOの日本拠点、IDEO Tokyoの立ち上げからデザイン思考の実践に取り組んできた、同社ビジネスデザイン&ディベロップメント担当シニアディレクターの野々村健一氏に聞いた。

野々村健一
IDEO シニアディレクター
慶應義塾大学卒業後、トヨタ自動車に入社し、海外営業や商品企画を担当。その後、米ハーバード・ビジネススクールへ私費留学し、経営学修士(MBA)を取得。IDEO Tokyoの立ち上げに従事し、現在同社シニアディレクター。IDEO共同出資のベンチャーキャピタルファンドD4Vの創業メンバー兼パートナーも務める

野々村さんは2011年のIDEO Tokyo立ち上げから関わり、年間100社以上のビジネスの相談を受けてきたそうですね。今日は公共から民間まで幅広い現場のご経験から、デザイン思考の日本での現状と課題についてお話をうかがえればと思います。デザイン思考は日本でも、概念としては浸透して、認知や理解もだいぶ進んできました。特にデザイナー以外の人たちから関心が寄せられていますが、やってみたがよく分からない、行き詰まってしまった、という話も聞きます。

まず「デザイン思考」を単独で切り取ると、方法論の議論になってしまいます。デザイン思考は道具であって、それ自体が目的ではありません。さらに言えば、魔法の杖ではないし、課題を入れたら必ず答えが出てくる方程式でもありません。

 現在、おっしゃるようにデザイン思考は日本でもある程度浸透し、教育機関でもひととおりのことを教えられる状況になっています。バズワードではなくなり、ツールの1つとして定着していくのは良い流れだと思います。逆に一過性の流行扱いをされていたら残念ですからね。

日本企業を支えてきたロジカル思考だけでは限界に

そもそも、日本企業にとってデザイン思考に取り組む意味はどこにあるのでしょう?

背景として、今の企業には「これまでにない新しいものを生み出す」ことが強く求められています。日本企業の間でも「新しいものを作らねば」という意識は強いのですが、すでに世界の先端とは3~4年の差が開いていて、突破口の1つとしてデザイン思考に期待が寄せられているのが現状だと思います。

 日本が今、苦戦している理由の1つは、これまでの手法が通用しなくなっていることです。ここ20~30年間全盛を誇ってきた、ロジカル思考の限界です。

 ロジカル思考は連続的な変化には非常に有効な考え方で、改善や課題の絞り込みに大きな力を発揮します。しかし視野を広げて発想を飛躍させ、これまでにない新しいアイデアを出すには不向きです。デザイン思考は逆に、ここが得意分野です。

 どちらがより優れているということではなく、選択肢を作り出すにはデザイン思考、絞り込むにはロジカル思考が有効、ということです。

新しいアイデアを受け入れられる組織環境か?

ロジカル思考とデザイン思考、かなり性質が違いそうです。

日本企業は、課題さえはっきりすればそれを解くことにかけては非常にたけています。ところが今、IDEOへやってくる企業のお話を聞いていると、そもそも「お題」が見えていない。例えば「モビリティで何かをしたい」といった抽象的なレベルで、まだ「お題」になっていません。そのお題を出すのに、デザイン思考が役立つのです。

 ただし、デザイン思考を使って新しいアイデアを出しても、それだけではだめです。現在の組織の多くが、組織体制から評価方法、意思決定の手順まで、すべてロジカル思考、つまり「絞り込む」ための手法に合わせて出来上がっているからです。その環境の中で新しいアイデアを出しても適切に評価されず、つぶされてしまう。組織環境づくりからやりなおさなければならないのです。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>